注目ポイント
ワールドミュージックの評論家として活動している関谷元子さんが、中華圏のアーティストや音楽の魅力を紹介する新連載。初回は関谷さんが個人的にも親交の深いという“歌神”の素顔に迫ります。
中華圏の音楽を紹介して早30年以上、音楽評論をしています、関谷元子と申します。これから、中華圏のアーティスト・音楽の魅力をお伝えしていきたいと思っています。よろしくお願いします。
今回は、日本人が中華圏でビジネスをする時に、この人の曲を覚えて行くとうまく進むと言われる中華圏のスーパースター、歌神と呼ばれる香港のジャッキー・チュン(張學友)をご紹介したい。歌手としては1985年デビュー、90年代になってから他の3人の男性スターと共に「四大天王」と言われ、今でも絶大な人気を博している。
今のところ最新のコンサートツアーは、1回の公演が3時間半、途中にはミュージカルも行なわれる豪華なショウで、2016年から2年半もかけて合計233公演行われた。
口パクなどしないから、ツアー中はどんどん痩せていくんだ、とジャッキー。ちなみに、以前のツアー中、中国でのコンサートで監視カメラを会場に置いたら100人の逃亡犯が捕まり、「歌神」ならぬ「捕神」と言われたこともある。犯人にとってはリスクを抱えても観たい歌神のショウというところだろう。
ジャッキーがデビューした頃は香港に多くのスターが出てきたのに作曲家が少ない、ということで、日本の曲が多くカヴァーされた。ジャッキーの「毎天愛你多一些」「李香蘭」は、前者がサザンオールスターズの「真夏の果実」のカヴァーで後者が玉置浩二の「行かないで」のカヴァー、中華圏の人なら誰でも知っている曲だ。当時香港に行った時、ホテルのラウンジで「真夏の果実」のピアノ演奏が聴こえたので「これ日本の曲よ」と言ったらホテルのスタッフに「いえいえ、ジャッキーの曲です」と言われたことがある。半年間にわたってチャートインしたというほどのスーパーヒットだった。
ジャッキーとは、90年代半ばから友人として親しくさせてもらっているので、ここからは、彼のキュートな素顔が見えるエピソードをお話ししよう。
以前音楽祭で来日した時、空き時間にラーメンを食べたいと言われ、会場近くの店に行った。ラーメンについては本が書けると豪語していたジャッキーだけにこだわりの食べ方があった。どうも替え玉をするらしく、「僕が今の麺を食べ終わる直前に替え玉が来るようにお願いしてね」と言う。店員さんにお願いしたらベストなタイミングで次の麺が来た。ジャッキーは食べながら全くその動作を止めずに上手に替え玉を入れて、時間が空かないようにすすっていた。絶妙な技(笑)。こだわりの人(笑)。