2022-07-11 ライフ

銭湯・サウナ・クラフトビール… 令和の若者をとりこにするライフスタイルが大阪梅田に

 

「昭和のおじさん」の代名詞だった銭湯やサウナ、ビールに、今20~30代の若者が注目している。阪急うめだ本店10階うめだスーク中央街区パークでは、全国の銭湯カルチャーを集めた「銭湯CHILLAX(チラックス)」の売り場を展開。阪神梅田本店1階食祭テラスでは、銭湯とクラフトビールの2大ムーブメントを取り上げた「湯上りビールフェス」を開催している。

阪急うめだ本店の「銭湯CHILLAX(チラックス)」の売り場。飲食のブースとグッズが並ぶ阪神梅田本店の「湯上りビールフェス」の会場。

CHILLAX(チラックス)はCHILL(チル)とRELAX(リラックス)を合わせた造語。「若者は、カフェなどでまったり休憩することを“チルする”という」と教えてくれたのは「銭湯CHILLAX」の売り場を担当した阪急うめだ本店の木村奈美さんだ。昔ながらの銭湯もあれば、若い人が跡を継ぎ、DJイベントやアートイベントを開くなど、従来とはイメージの異なる銭湯も生まれている。

木村さん自身、小さい頃に銭湯によく連れて行かれたという。「隣に座ったおばさんが話しかけてきたりして、初めて会うのに自然とコミュニケーションが取れるのも面白い。日本の残していくべき文化だし、この文化をもっと浸透させたい」という思いで企画した。

hiroaki takanoさんが直接銭湯に行って描き下ろしたイラスト(「銭湯CHILLAX(チラックス)」)。

「湯上りビールフェス」を担当した阪神梅田本店の吉田創さんは、銭湯とクラフトビールにまつわる“人”を会場に集めた。滋賀県大津市の銭湯「都湯」の番頭・原俊樹(はら・としき)さん、大阪市東淀川区の銭湯跡地をビール工場にした「上方ビール」の志方昂司(しかた・こうじ)さん、徳島県上勝町のクラフトビールメーカー「RISE&WIN」の池添翔太(いけぞえ・しょうた)さんらは、銭湯ブームやクラフトビールブームの中心にいる人物だ。

「上方ビール」の志方さん(左)と「RISE&WIN」の池添さん(右)のトークショー。

「お風呂屋さん×(掛ける)〇〇」がしたい、黒猫と暮らす番頭の原俊樹さん

「全部の縁が今につながっている」と話す原さん。

大阪府吹田市出身の原俊樹さんは、18年11月に滋賀県大津市の廃業していた銭湯「都湯」を開業した。「15歳の時に家を出て、四畳半のトイレ共同、風呂なしの物件に住んでたんで、必然的にお風呂は銭湯。もともと銭湯が好きだったんです」
転機が訪れたのは、18年6月の大阪府北部地震と同年9月の台風21号。地震でライフラインが止まり銭湯のありがたみを痛感し、台風被害で銭湯がバタバタと休業したことにショックを受けた。
「思わず、“僕がやる!”って言ったんですよ」。だが、素人が簡単に引き継げるわけもなく、若手銭湯経営者として先を歩んでいた京都市下京区の「サウナの梅湯」の湊三次郎さんに会いに行った。「銭湯がなくなってほしくないと伝えたら、一緒にオーナーに交渉に行ってくれた」。結局、地元の銭湯は継げなかったが、湊さんの2号店「都湯」を任されることになった。1年前には独立し、今は番頭を務めている。
銭湯経営を始めてみると、前職の食品メーカー営業時代の感覚が役立った。「お客さんが来てくれてはんのに、番台に座って、ただいらっしゃい、おおきにと言うだけで何もしないのは、もったいないじゃないですか」。そこで、出版社に声を掛けて銭湯でブックフェアを行い、自ら本を売った。「銭湯が450円、本が1500円ほどだから、誰が買うんですかって(笑)」。ところが、蓋を開けると記録的な売り上げとなった。「サラリーマン時代のお堅い営業と違って、風呂屋の接客は“人情”。彼女の誕生日だっていうから、これ買ったらええやん! って言ったら、買いますってなる(笑)」。
普段から意識しているのは、近江商人の「三方良し」だ。「自分をなくすのって、一見良くない言葉に聞こえるけど、すごくいい。銭湯だけど本を売る。出版社もうれしい、都湯も関われてうれしい、買った人もいいものが買えてうれしい」
ブックフェアが縁となって、銭湯マンガ『みゃーこ湯のトタンくん』(スケラッコ著・ミシマ社・東京)が誕生した。「トタンは都湯の男湯の上で生まれた野良猫なんです。都湯を再開した2018年11月17日生まれ。そのストーリーがもう“招き猫”」

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