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ドイツの金融界トップらは今週、エネルギー危機が迫る中、欧州最大の経済である同国が直面する重大なリスクについて懸念を表明した。輸出主導の経済をロシア産天然ガスに大きく依存してきたドイツは、ウクライナ侵攻で対立するロシアに供給を完全停止される可能性があるからだ。エネルギー価格の高騰により、ドイツのインフレ率はすでに歴史的な8%に達しているという。
ドイツ銀行のゼーヴィングCEO(最高経営責任者)はフランクフルトでの会議で4日、インフレには「巨大な破壊的可能性」があり、来年の世界的な景気後退の危険性を高めると分析。「今後12か月で何が起こるのか心配している」と語った。
同会議でコメルツ銀行のオルロップCFO(最高財務責任者)は、今ある経済へのリスクは2011年後半の欧州政府債務危機時と似ていると指摘。当時、ギリシャ財政危機への支援をめぐり、イタリアやスペインの国債の利回りが急上昇するなど市場が混乱した時期と比較した。
ロイター通信によると、ドイツ最大手であるドイツ銀行とコメルツ銀行は利益回復のため、人員削減やその他のコスト削減を含む大規模な合理化過程にあり、ある程度の結果を出している。だが、ロシア産天然ガス供給停止への懸念が高まり、低迷していた両行の株価はさらに下落した。
特にドイツ政府が3段階に設定したエネルギー供給計画が、第2段階に移行した6月23日、両行の株価はそれぞれ約12%下がった。過去1か月で欧州の銀行の平均指標がマイナス8.3%だったのに対し、両行はマイナス20%以上となった。
金融界の懸念は資金調達を銀行に依存している産業界にとっても同じだ。電力・ガスなどを供給するドイツのエネルギー大手エーオン(E.ON)のシュピーカーCFOは、同じフランクフルトの会議で、「私たちはエネルギー危機の真っただ中にあり、さらに大規模な経済危機に発展する可能性がある」と危機感をあらわにした。
それを示すように、ドイツは4日、過去30年以上で初めて月ベースの貿易収支が赤字に転落したと発表。5月の貿易収支は輸入額が前月比2.7%増に対し、輸出額は同0.5%減で、10億ユーロの赤字となった。
米紙ニューヨーク・タイムズは、輸出大国ドイツは貿易黒字が常態化していたが、赤字への転換により、4人に1人の割合で仕事が輸出に依存しているドイツ経済の脆弱性を露呈したと指摘。ウクライナ戦争以前、ドイツのエネルギー輸入はロシア産天然ガスが55%を占めていた。そのため、エネルギー価格高騰で輸入額が膨らみ、企業を圧迫していると説明した。
ウクライナ侵攻後は、ドイツは天然ガス輸入に占めるロシア産の割合を推計35%に減らしたが、今も依存は続いている。
ドイツ商工会議所協会の対外貿易責任者テレイエ氏は、「輸出の低迷が始まった」とし、生産コストの上昇に言及。「輸出業者はサプライチェーンによって引き起こされたコスト増加を、海外の消費者に転嫁することが出来なくなっている」と厳しい現状について語った。