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暗号資産を悪用した世界最大級の巨額詐欺事件の主犯とされるブルガリア人の女が先月末、米連邦捜査局(FBI)の「10大最重要指名手配」リストに加えられた。ルジャ・イグナトワ容疑者(42)は、2014年~16年に「ワンコイン」という実在しない仮想通貨による無限連鎖講(ネズミ講)を世界中で展開し、被害総額は40億ドル(約5400億円)以上に上るという。
2016年、ロンドンのウェンブリー・アリーナは米歌手アリシア・キースの「ガール・オン・ファイア」が流れ、火薬を使った特殊効果で大いに盛り上がり、ステージには真っ赤なロングドレスのイグナトワ容疑者が登場した。情熱的な口調で「ワンコイン」がやがて世界のデジタル通貨市場を支配し、仮想通貨への投資ブームの火付け役となった「ビットコイン」を凌駕すると断言してみせた。
イグナトワ容疑者の投資セミナーに集まった数千人の観客は熱狂し、その年、「ワンコイン」の知名度は米国をはじめ、世界中に広まった。だが、彗星のように現れた〝仮想通貨〟は突然、予想外の結末を迎えることになる。
米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)によると、イグナトワ容疑者はブルガリアの首都ソフィア出身で現在はドイツ国籍。かつて米コンサルティング大手マッキンゼー・アンド・カンパニーで勤務経験があるとされる。世界各地で開かれた投資セミナーで、同容疑者はワンコインの購入を言葉巧みに呼び掛け、信者たちは彼女を〝仮想通貨クイーン〟と呼んだ。
だが、実際は「ワンコイン」という仮想通貨はデジタル資産市場で取り引きされておらず、通貨としても利用できない巨額詐欺だったことが判明したのだ。
米司法当局によると、イグナトワ容疑者を首謀者とする詐欺グループは、40億ドルというあまりに多額の現金があっという間に集まったため、保管場所に困り、ブルガリアの事務所や幹部の自宅のほか、香港やドバイ、韓国の事務所にも隠し持っていた。さらに、現金の処理に困り、アラブ首長国連邦の首都アブダビの競馬で競走馬に投資したりもしたという。
ところが、ウェンブリー・アリーナでのド派手演出のセミナーから1年、捜査当局の動きを察知したイグナトワ容疑者は「ワンコイン」とともに突如、姿を消した。同容疑者は17年、巨額詐欺事件の主犯として米連邦大陪審により起訴されたが、すでに逃走後だった。英BBCは19年に「姿を消した仮想通貨クイーン」というタイトルのポッドキャストシリーズを配信し、話題を呼んだ。
ただ、WSJ紙によると、同容疑者はネズミ講詐欺の拠点としたブルガリアを離れ17年10月にはギリシャに入国したことをFBIは確認している。FBI関係者はイグナトワ容疑者が武装した警備スタッフが共に行動しているようだと明かした。
欧州では5月にイグナトワ容疑者を「最重要指名手配」リストに加えたのに続き、FBIも米国の「10大最重要指名手配」リストに追加。FBIは被疑者確保につながる情報提供者に報奨金10万ドル(約1350万円)を支払うとしている。