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香港が英国から中国に返還されて1日で四半世紀。返還当初、向こう50年は香港の高度な自治と、中国本土にはなかった集会、表現、報道の自由を保障するという約束だった。いわゆる「一国二制度」の始まりだ。ところが、その約束は反故にされ、2020年には香港国家安全維持法が成立。習近平体制は香港の〝中国共産党支援都市化〟を目指すという。
返還から25年。人口740万人の香港では、旧宗主国・英国と中国の間で交わされた約束は形骸化し、将来は不透明だ。その香港では1日の記念式典出席のため、前日に高速列車で現地入りした習近平主席は、レッドカーペットの周りに配置され、五星紅旗の小旗を手にした市民により熱烈な歓迎を受けた。
ジョンズホプキンス大学の政治経済学のホウ・フォン・ハン教授は、「これはビクトリーラン。つまり習近平は、香港の〝セカンドリターン(2度目の返還)〟を達成したのが自分であることを誇示している」と解説した。
2019年から激化した香港民主化デモ。市民は「逃亡犯条例改正案の完全撤回」や「普通選挙の実現」など、5つの目標「五大要求」を掲げ、市内では連日デモを展開した。最大で200万人(主催者発表)が参加した日もあった。
だが、中国政府の指示により香港の治安当局はこれを鎮圧。それにより中国政府と、香港の若者たちや西側政府との関係に亀裂が入った。それでも、政治支配と国土保全を何よりも重視する中国共産党にとって、香港で何十年にもわたり、市民の反発で棚上げになっていた香港国家安全維持法案を、やっと20年に可決したことは大きな成果だったと米紙ワシントン・ポストは振り返った。
中国の識者たちは、これを香港の〝セカンドリターン〟と呼ぶ。つまり、英国との約束を国家安全維持法により骨抜きしたことで、中国共産党支配下の都市として1997年の〝ファーストリターン〟に次ぐ、2度目の返還だというのだ。
香港中文大学の有力な政治学者・郭永年氏は、香港が返還された1997年当時は、「統治力のない主権」だったと語った。そして、それを変えたのが習氏だという。
郭氏は、同法の成立は良いスタートだったとし、香港の政治システムが「過激な民主主義から、香港の文化と品格、社会構造により適した民主主義の形態に移行する」ために通らなければならない「再建」の始まりに過ぎないという。
そのため、中国にとって重要な使命を担うのが林鄭月娥(キャリー・ラム)氏の後任として1日、香港特別行政区行政長官に就任した李家超(ジョン・リー)氏だ。同氏の最重要課題は、国家反逆や分離活動、民衆の扇動などを取り締まる法律制定を義務付ける香港基本法第23条を履行することだという。この条文もまた、市民からの大規模な抗議で、03年から棚上げされたままだ。
だが、習氏の野望はその程度の市民監視と法律の根本的な見直しという次元を超え、中国共産党を支援するための教育制度と社会システムを構築することだとワシントン・ポスト紙は分析する。
同紙は、そんな習氏が描く将来を最も受け入れられないのが返還時期に生まれた世代だと指摘する。現在20代半ばの若者たちは、より自由で民主的な社会を求めたものの、中国政府の強硬手段に対する抗議デモを通じ、地方政治の現実を見せつけられたというのだ。
「私は若い頃、普通選挙が何であるかも知らなかったが、その後、『雨傘革命』を経験したことで、そういう態度を変えた」と法学部の大学院生ココ・オーさん(25)は語り、2014年の香港反政府デモに言及した。香港では中国政府が候補者を選挙前に選別することを可能にした選挙制度改革をめぐり、学生を中心に市民が香港特別行政区政府に対して大規模なデモを展開した「雨傘革命」と呼ばれる反政府運動だ。
ワシントン・ポスト紙は、1997年頃に生まれた世代の多くの人は裏切られたと感じているという。25歳のジェフ・ヤウさんは、返還自体は良い出来事だったと感じて育ったが、最近では「香港の将来が怖くなった」と語った。続けて、「私は少し息苦しく感じる。そして香港は西洋諸国よりも開かれていないように感じる」と胸の内を明かした。
1日の式典に国営メディアは祝賀ムード一色だが、その陰で習氏は一抹の不安をのぞかせた。地元メディアによると、習氏は香港に滞在せず、退任する林鄭月娥氏との夕食後、香港の境界線を越えて本土の深センに戻り、改めて1日の朝、香港に戻ったという。これは明らかに香港の民衆を恐れ、万が一の場合に備えての当局による措置だ。
そんな先行き不透明な香港で暮らすケン・ラムさん(50)は、「今は海外に移住する方法もあるが、ここに残って、これから香港がどれほど酷くなるのか、この目で確かめたい思いがある。結局、ここで生まれ育ってきたから」と語った。
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