注目ポイント
台湾政府によって16部族が認定され、全人口の約2.5%を占める台湾原住民(先住民)。日本でもメディアを通じて彼らの伝統舞踊や料理に触れる機会はあるが、彼らのあいだで今でも古くからの「おまじない」が伝承されていることはほとんど知られていない。知られざるまじない文化から見える台湾原住民の世界観や生き方を、全3回にわたって解説する。
- そもそも台湾原住民族とは?
台湾には原住民族とよばれる人々がいる。台湾が好きで、よく観光に訪れるという人でも、集落の多くが山間部にある原住民族のことは博物館にでも行かなければなかなかわかりづらかったりする。
台湾原住民族とは、現在台湾にいる人々の中でも最も古くからこの地で暮らしてきた人々である。え?「先住民」とは言わないのか、と以前私は疑問に感じたことがある。実は中国語の「先住民」という表現には、「すでに滅んでしまった人々」という響きがあるので、台湾現地では「原住民」という表現が使われているのだそうだ。だから私も、原住民と呼んでいる。
ここではまず、台湾原住民族とは、現在台湾に暮らす人々のなかでいちばん古くからの住人、とおさえておいていただきたい。
また、台湾原住民族の人口はどれほどいるのか。2022年4月の時点で台湾の総人口は約2321万人だが、そのうち政府に認定されている原住民族の総人口は約58万人となっていて、比率で言うと全人口の約2.5%にあたる。(台湾内政部の統計資料に基づく。)

そして、台湾原住民族の話す言葉は、学術上は南島語族という言語に分類される。聞きなれないかと思うが、主に南太平洋を中心にひろがる言語集団のことを指している。なぜ「語族」というのかといえば、これは南島の先住民族たちが話す言葉が、元をたどると共通の祖先に行き着くと考えられているからだ。
言い換えるなら、台湾の原住民族が話す言葉は、南太平洋の島々のそれと親戚関係にあるということだ。この南島語だが、他の台湾人が聞いても理解できないのはおろか、原住民族のなかでも、それぞれの族で話す言葉は大きく異なっている。
さて、ここまでを簡単にまとめると、台湾の原住民族は最も古くから台湾に暮らし、言語的にも中国語とは異なる別の体系を持つ。またその伝統的な居住空間は、一部の平地にある集落を除いて、多くが山間部に位置する。ところが、こうした台湾の原住民族と日本との間には深い結びつきがあるのだ。
- 台湾原住民族と日本との繋がりとは?
かつて50年に及んだ日本の台湾統治は、原住民族にもさまざまな影響を及ぼした。
以前、ルカイ族の集落を訪ねた時のことだ。
山の中にあるため、集落の中でも上り下りがきついところがけっこうあり、日ごろからビールばかり飲んで運動もしていないような私はヒイヒイ言ってしまった。

そんな時、誰かに突然声をかけられた。「あんた、日本の子どもか。」
どこからだろう、少しかん高い男性の声。わたしは最初、聞き違えかと自分の耳を疑った。だが、いまのは、間違いなく日本語だったはずだ。あたりを見回してみると、少し離れた高台から、肌の浅黒いおじいさんがこちらの方をうかがっていた。