注目ポイント
生涯のうちに交通事故で1回以上負傷する確率が8割に上る台湾。かつての日本で交通事故の負傷者・死者数が急増し、「交通戦争」という流行語が生まれたように、台湾の劣悪な交通環境を「戦争状態」と指摘する声も多く上がっている。活発な市民社会を持つ台湾の負の側面を、前後編に分けて掘り下げる。
彼らの言う通り、活発な市民社会を持つ台湾、しかしその道路環境は、もはや市民の基本的生活を侵害する形で許容されている。
●弱肉強食の世界
整備されていない交通インフラ、特に歩道や公共交通機関が完備されていない環境は、弱肉強食の世界となり、体積が大きいものは有利になる。台湾の道路で身の安全を確保したいのならば、自動車を所有することが唯一の選択肢になる。逆に自動車を持つことができないものは、必然的に弱者になる。
歩行に関して言うと、こうした交通環境は、高齢者、身体障がい者や、社会化されていない子供にとって、極めて危険なものとなる。首都の台北では比較的歩道や公共交通機関が整備されているが、台北から外れるとそれは著しく乏しくなる。

© Photo Credit: AP / 達志影像
街中にいると、よく車椅子利用者が車道で走行しているのを見かける。自動車は車椅子利用者を避けながら通っていき、これを見るたびに冷や汗をかく。台湾では歩道が充実しているとは言えないが、ないわけではない。しかし、その歩道には電柱、地上変圧器、無断駐車しているバイクや車など、障害物で溢れている。車椅子で通れるものとはとても思えない。
台湾の司法院は2020年、「公民行動方案競賽」と題する、公共政策の問題を発見し、研究を通して解決策を提案し合うコンテストを行なった。その中で、参加者の「光合作用」チームは実際車椅子に乗り、歩道を利用し、上記のような多くの問題点を指摘した。
また、車椅子利用者のYouTuber「Chairman椅人 」も、「出かけることは戦争だ」というタイトルで、普段生活している上で感じる不便な点を取り上げた。
これらの動画は、中国語がわからなくとも、映像を見るだけで、車椅子利用者がどれだけ不便な生活を送らされているか窺えるだろう。
次に子供の通学を見てみよう。台湾で子供が道路で歩くことは、保護者にとって恐怖そのものだろう。したがって子供の身を守るためにも、通学の際、保護者はバイクや車で送り迎えしていることが多い。台湾では下校時間になると、大量のバイクと車が校門の前で泊まっている、時には車道にまではみ出している。靖娟児童安全文教基金會の調査によれば、台湾では9割の小学生が保護者の送り迎えで通学している。基金会の代表林月琴氏は「保護者の交通環境に対する不信感が浮き彫りになった」と言っている。また、これに関しては「過保護な文化」類の問題ではなく、同調査によれば、保護者としては子供が自ら登下校できる能力を身につけてほしいとのことだ。
