2022-06-15 経済

「戦争状態」にある台湾の交通環境(前編)

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注目ポイント

生涯のうちに交通事故で1回以上負傷する確率が8割に上る台湾。かつての日本で交通事故の負傷者・死者数が急増し、「交通戦争」という流行語が生まれたように、台湾の劣悪な交通環境を「戦争状態」と指摘する声も多く上がっている。活発な市民社会を持つ台湾の負の側面を、前後編に分けて掘り下げる。

日本では、戦後から1960年代半ばあたりに、交通事故の負傷者・死者数が著しく増加し、1970年代にピークに達した。1951年から1970年の20年間に、負傷者数は31倍に(3万274人から98万1096人)、死者数は4倍(4429人から1万6765人)に跳ね上がった。そして、この死者数の水準が日清戦争2年間の死者数(1万7282人)に匹敵することから、この状況は一種の「戦争状態」であるとして、「交通戦争」と呼ばれていた。

急増する交通事故は、行政各分野が協力して取り組む重要課題となった。日本政府は1970年、交通安全対策基本法を制定するとともに、中央交通安全対策会議を設置し、交通安全対策の体制を確立していった。対策の詳細についてここでは触れないが、政府、関係機関、国民など各方面の努力により、交通事故件数は徐々に減少していった。そして2021年日本の交通事故死者数は、統計が始まって以来最少の2636人となった。

では、台湾はどうだろうか。2021年の台湾の交通事故の死者数は2990人である。日本と台湾の人口比は約5.5:1であることから、この数字の異常さを知れるだろう。2020年台湾の交通事故による死者数は人口10万人あたり約12.7人であり、この値は1960年代半ばから1970年代半ばまでの日本とほぼ等しい。つまり、2020年代に入った台湾は、50年前の日本と同じく「交通戦争」状態である。

ちなみに、台湾の交通事故件数は例年増加傾向にあり、2008年は17万127件だったが、2021年には35万8190件まで跳ね上がっている。台湾大学先進公共運輸研究科の張學孔教授の計算によると、台湾の交通事故による経済損失は毎年約4600億台湾ドルであり、GDPの3.17%も占めている。

グラフ, 折れ線グラフ

自動的に生成された説明

図:民國97年(2008年)から民國110年(2021年)までにおける台湾の交通事故死者数推移(引用:道安資訊查詢網)

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図:民國97年(2008年)から民國110年(2021年)までにおける台湾の交通事故件数の推移(引用:道安資訊查詢網)

 

●海外から問題視されている台湾の交通事情

上記の事柄が示しているように、台湾の交通環境の劣悪さは自明だ。しかし台湾国内では、未だに改革を求める世論は高まっていないと言えよう。ただ、こうした問題は海外から度々問題視されてきた。まずは日本を例にとって見てみよう。

2021年日本台湾交流協会によって発行された「台湾在留邦人安全の手引き」の「交通事故対策」の部分で、こう書かれている。

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