注目ポイント
生涯のうちに交通事故で1回以上負傷する確率が8割に上る台湾。かつての日本で交通事故の負傷者・死者数が急増し、「交通戦争」という流行語が生まれたように、台湾の劣悪な交通環境を「戦争状態」と指摘する声も多く上がっている。活発な市民社会を持つ台湾の負の側面を、前後編に分けて掘り下げる。
●私たちと交通事故の距離
私が台湾に引っ越して来てからもうすぐで2年が経つ。この間、美味しいものを食べ、人の暖かさに触れ、心地良い時間を過ごしてきた。ただ一つだけ、どうしても慣れないことがある、それは台湾の交通環境だ。
私はこの2年間、台湾の街中で何度も轢かれそうになった。外へ出歩くと、歩道がないため、できるだけ道の端に寄って歩こうとするが、そこは無断駐車している車両で埋め尽くされている。駐車している車両を避け、車道の真ん中を歩かざるを得ない、そして迫り来る車とバイクはクラクションを鳴らし、至近距離で私を避けながら疾走していく。
これが台湾に住んでいる人の日常だ。
毎日、痛ましい交通事故のニュースが目に入ってくる。直近で言うと、歴史ノンフィクション作家の陳柔縉さんや、パラリンピック選手の陳亮達さんなど、台湾に大きく貢献してきた人らの命が交通事故によって奪われた。このような死亡交通事故は今台湾中で至る所に起きている。事故にあったら、その被害者だけではなく、その家族、友人の悲しさも計り知れないものだろう。しかし、なぜか未だにこの状況は改善されていない、人々はすっかり慣れているように見える。
台北医学大学公衛学院の高志文准教授は、Jonathan Knowlesの統計データを用いて交通事故に関する台湾と日本の比較を行った。彼の計算によれば、人生で交通事故により1回以上負傷する確率は、日本が21.9%で、台湾が80.0%という凄まじい数字であった。そして、人生で交通事故により死亡する確率は、日本が0.189%、台湾が1.03%であった。また、交通事故の中でも若者の死亡率が高く、毎年約400名の18-24歳の若者が交通事故で亡くなり、年齢別死因だと交通事故は44%も占めている。(https://www.slideshare.net/hprc_tmu/1110330-1970-2021-pdf)
上記データのように、台湾は日本と比べて、事故に遭う確率が圧倒的に高い。これに関して私自身もそう体感している。私の周りの人で言うと、半数以上の人が1回以上交通事故に遭っている。そして、交通事故によって大切な人を亡くした人もいる。台湾に住む人とって、こうした危険と隣り合わせの状況が日常になっている。この状態は、決して普通とは言えない。
●1970年代日本の「交通戦争」と今の台湾
「交通」と「戦争」という言葉を聞いたら、何を思い浮かぶだろうか。私は教習所の講習で習った1960~1970年代日本の「交通戦争」を想起する。実際、現在台湾では、1960~1970年代日本の「交通戦争」と呼ばれた状態を引き合いに出し、台湾の交通環境は「戦争状態」であると指摘する声が多く上がっている。