2022-06-08 経済

ウクライナ侵攻長期化でプーチン氏が恐れる 国民の「もう以前の日常に戻れない」絶望感

© Photo Credit: AP / 達志影像 McDonalds’ in Moscow

注目ポイント

ウクライナへのプーチン露大統領による「特別軍事作戦」がすでに100日を超え、ロシア国内の都市部では以前の日常生活を懐かしみ、うつ状態に陥る人たちが日ごとに増えているという。米紙ワシントン・ポストは、プーチン氏が恐れるのは、そんな国民の絶望感だと指摘した。

「ロシアで都会に住む中流階級層にとって、ウクライナ戦争は全ての計画を台無しにした。待ち望んでいたバケーションは取り止めになり、お気に入り海外ブランドの洋服などのショッピングという楽しみを奪い、日本製の新車に乗ったり、ビッグマックを食べることさえ今や不可能となった」とワシントン・ポスト紙は報じた。

戦争が長引く中、ロシアの侵略をめぐり外国企業が撤退し、物価は急騰。そんな中で侵攻前の日常生活を多くの人が懐かしんでいる。同時に、プーチン氏はこれまでのように、ロシアが勝つまで戦争を継続することも分かっているのだ。

同紙によると、「ウクライナ人をナチスから解放するために戦争は必要」だと大多数のロシア国民を説得した国営テレビのプロパガンダは、今度は戦争が長引くことを覚悟させ、不吉にも最後は核戦争で終わることすら警告している。これはウクライナにとって、さらなる市民の犠牲や、家屋の破壊、毎日数十人という東部で国を守る兵士の死を意味する。

これに比べれば、ロシア人の困難さなどささいなことだが、長期戦が人々にもたらす暗闇をプーチン氏は恐れていると専門家は分析する。それは西側による経済制裁が効き、経済は縮小し、物価上昇は止まらず、国民はもう元の生活には戻れないという絶望感を抱き始めることだという。

だが、「西側がロシアを飲み込もうとしている」と危機感をあおるクレムリンの常とう手段のプロパガンダは今のところ、まだ効果的なようだ。

ロシアの独立系調査会社レバダセンターによると、5月下旬に行った最新の世論調査では、77%のロシア人が戦争を支持し、4月に行われた前回調査の74%を上回った。世代別では18~24歳の60%、55歳以上では83%が戦争を支持した。ただ、44%はこの戦争が長期化し、少なくとも今後6か月は続くだろうとしている。

同社のデニス・ボルコフ氏は、「ロシア人は世界のほとんどが敵で、ロシアを守っているのはプーチンだとみており、プーチンなくしてロシアは完全にやられると認識している。彼らにとってロシアは自国の防衛戦争だととらえている」と調査結果を分析した。

ワシントン・ポスト紙がインタビューした語学教師のマリーナさん(57)は、友人らとは戦争の話は避けているとし、「一般的に、誰もが戦争だか特別作戦だかに辟易している。それぞれ問題を抱えていて、特に問題なのは、値上がりが続く中でどうやってサバイバルするか」だと明かした。

マリーナさんは、わずか数か月前までの日常生活を思い出さずにはいられないとし、「ネットフリックスで欧米の映画を見たい。ユニクロで買い物をしたい。リーズナブルで安心な航空会社で欧州を旅行したい。のけ者じゃなく、世界の中の一員でいたい」と胸中を吐露した。

また、商社の経理部に勤務するクセーニャさん(50)は、ほとんどの同僚がウクライナ侵攻を支持していたが、最近では戦争の話題を避けるようになったという。「同僚たちはようやく物事がうまく行っていないことに気付き始めた。みんな今は、『自分たちが始めた戦争じゃないのに、自分たちにツケが回ってきた』と話している」という。

クセーニャさんはこの夏、米国とイタリアを旅行するはずだったが、ビサの取得はできなくなったと明かした。「もう未来は無いように感じて、すごく落ち込んでいる」と話した。彼女はまた、「ゴールデンアーチ」と呼ばれるマクドナルドのシンボルである大きな〝M〟の看板が撤去された時には心が痛んだという。ハンバーガーファンというわけではないが、その看板が象徴したものが奪われた気がしたからだ。

「私にとってマクドナルドはいつも自由の象徴だった。モスクワに1号店がオープンした時のこともよく覚えている」とし、ソビエト連邦崩壊1年前の1990年1月に開店したマクドナルドの外には長い行列ができたと当時の様子を回想。「まるでトンネルを出て光を見たような感覚だった」と冷戦終焉の喜びを肌で感じたという。

だが、モスクワ在住のコンピュータープログラマー、アンドレイさん(43)は、典型的な高齢のプーチン支持者ではないが、この戦争を〝神の思し召し〟だと受け入れているという。あるロシア人ブロガーからいつも情報を入手していて、西側が発信するニュースは〝フェイク〟だと確信したという。

「戦争の目的は90年代以前のようなソ連時代の生活を望む市民のため、ウクライナからファシズムを排除することだ」とし、プーチン氏のプロパガンダに共鳴した。

国民の間でもウクライナ侵攻の受け取り方が二分する中、ロシアの政治アナリスト、フョードル・クラシェニーンニコフ氏によると、多くのロシア人はウクライナがロシアの軍事力の前に屈し、早く降伏することを願っているという。ロシア国内の雰囲気は、「これ以上、こんな状態の生活を続けることはできないから、一刻も早くこの状態を終わらせてほしい」というものだと指摘した。

同氏は、「国民は何も変えることができず、フラストレーションや鬱(うつ)をため込んでいる。言ってみれば悪天候のようなもの。毎日雨が降っているからといって、どうにもできないのと同じだ」との見解を示した。

 

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