2022-06-05 ライフ

連載「いちにの算数いーあるさんすー」 台湾ルネサンス時評:青春は一度だけかもしれないけれど。

© 公式サイトより

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台湾在住の漫画家・イラストレーターの高妍(ガオイェン)の連載漫画『緑の歌』が、5月25日に上下巻で刊行された。単行本化を「待ちに待っていた」というライター・編集者の神田桂一さんが作品から感じたこととは?

待ちに待っていた漫画がやっと発売された。その漫画の名前は『緑の歌』(KADOKAWA)。台湾のイラストレーターであり漫画家の高妍さんが、『コミックビーム』(エンターブレイン)に連載していた漫画だ。高妍さんは、それまでも、村上春樹の『猫を棄てる 父親について語るとき』(文藝春秋)の装画を担当していたり、徐々に日本人の間でも話題を集めていた。

主人公の緑(リュ)は、海辺の街から台北へ大学進学で、引っ越しをしてきた大学生。ふとしたときに聴いたはっぴいえんどの「風をあつめて」が心のなかにずっと残っている。台北の海辺のカフカというライブもできるカフェで、バンドをやってる友達、南峻(ナンジュン)と出会う。ふたりは、意気投合し、日本の音楽の話で盛り上がり、やがて、距離が縮まっていくが……という話なのだが、なんというか、他人事とは思えないリアリティがあるのだ。文化的な面で台湾と日本は通底しているのではないか、と思わざるを得ない作品なのである。

緑ははっぴいえんどのアルバム『風街ろまん』を買うために、東京にひとり旅行に行く。ディスク・ユニオンで、見つけて、店内に流れていた曲に魅せられて、細野晴臣の『HOSONO HOUSE』も購入する。細野がはっぴいえんどのメンバーとも知らずに。

漫画のなかでは、台湾で、重要なカルチャースポットが、惜しげもなく登場する。僕は今、緑とは、まったく逆のことを台湾でやっている。台湾の音楽に魅せられて、台湾でレコードを漁るためだけに飛行機に乗って台湾に行っている。もちろん、漫画に出てくるカルチャースポットはほとんど訪れた。

青春は一度だけ。その真っ只中の美しい恋と音楽の日々。それだけで、僕なんかは泣けてくるのだが、思わず、自分の大学時代を思い出して、懐かしくなってしまった。そうそう、こんな日々だったよね、特に何があるわけでもないんだけど、ひとつひとつの出来事が新鮮で、それが愛おしかった、そんな日々。そんな物語にまだ共感出来る自分がいたことに多少びっくりしつつも、いつまでも、そんな感受性を忘れたくないなと思った。

 

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