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「未来を共有する共同体」を構築するためという名目で、ソロモン諸島など南太平洋島嶼(とうしょ)国を歴訪中の中国の王毅(おう・き)外相は5月30日、同地域の10か国との外相会議で経済や安全保障での協力に向けて協定案を提示したが、一部の国が不信感や懸念を示したことで合意に至らなかった。その「懸念」とは、覇権主義という野心を隠すこともなくなった中国への危機感だった。
王毅外相は先月26日、最初の訪問地ソロモン諸島を訪れた。ソロモンと2国間の安全保障協定を4月に締結したばかりでもあり、王毅氏はマネレ外務・貿易相との会合で、安保面でソロモン諸島を「固く支持する」と約束した。人口約69万人のソロモン諸島は軍隊を持たないため、もし警察だけでは対処できないような事態に陥った場合、中国が支援するというものだ。
同国のソガバレ首相(67)は2019年、台湾と断交し、中国と国交を回復させた。国民の声をよそに独断で中国との関係を強化しているとされる。それに抗議する市民らは昨年11月に大規模なデモを行い、暴動が発生する事態となった。その際は同じ英連邦のオーストラリアが軍と警察を派遣し、暴動を鎮圧したが、今後は安保条約により、その役割を中国が担うことになったのだ。
この2国間安全保障協定に、米国を始めオーストラリアやニュージーランドなどは強く反発。米国側は、「もし中国がソロモン諸島に軍事拠点を置き、軍を常駐させるような事態になれば、地域安全保障にかかわる問題として米国は軍事行動を排除しない」とソロモン側に強く警告した。
一方、王毅氏はソロモンに続き、キリバス、サモア、フィジー、トンガ、バヌアツ、パプアニューギニア、東ティモールの計8か国を4日までの日程で訪問する。
その途中で行われた南太平洋島嶼国10か国との外相会議に先立ち、王毅氏は中国が策定した共同声明と5か年行動計画を参加国に配布。だが、一部の国が「中国による地域支配の意図がうかがわれる」との懸念を示した。
会議後の会見でフィジーのバイニマラマ首相は、「各国の合意が第一だ」とし、参加国の間で意見が一致しなかったことを示唆し、中国が示した声明案と5か年計画は合意されなかったことが明らかになった。在フィジー中国大使は、会合参加国が「合意を達成するまで」協議を続けることには賛成したとし、かろうじて面目を保った。
王毅氏によると、会議参加国の一部から、「中国はなぜ南太平洋島嶼国への進出に積極的なのか」と質問され、アフリカ、アジア、カリブの途上国も同様に支援していると答えたという。その上で王毅氏は、「過度に心配したり、神経質にならないでほしい。中国とその他全ての途上国の共同の発展と繁栄が意味するところは、大いなる調和、公正さの向上、全世界の一段の進展にほかならない」と主張した。
外相会議には習近平国家主席もビデオメッセージを送り、「国際情勢がどのように変化しようとも、中国は常に太平洋島嶼国の良き友であり、良き兄弟であり、良きパートナーであり続ける」とし、「未来を共有する共同体」の構築に取り組む用意があると表明した。