注目ポイント
4月に日本テレビ系でスタートしたドラマ「悪女(わる)~働くのがカッコ悪いなんて誰が言った?~」は、深見じゅんの人気少女マンガ『悪女』の2度目のドラマ化。女優今田美桜が主演を務める、主人公・田中麻理鈴が持ち前の明るさと根性で出世していくラブ・ジョブ・エンターテインメントで、1988年から1999年にかけて連載された原作、30年前の平成版ドラマ、そして今回の令和版ドラマのそれぞれが、各時代の「女性の働き方」を反映している。女性の社会進出が叫ばれる一方、働きづらい状況は依然として続く日本。この30年余りで変わったこと、変わらないこととは?
≪出世する女は悪女ですか?≫
同学歴で同期入社でも、女性は男性より初任給が安く、昇給、昇進も遅い。入社後もお茶酌みとコピー取りと飲み会のお酌が主な仕事。結婚、出産したら退社が当たり前という時代だった1988年、一目惚れした男性と釣り合うくらい仕事ができるようになって彼に認めてもらうため、持ち前の根性と明るさで、一生懸命元気に働いて、出世していく女性を描いたコミック「悪女(わる)」の連載が始まった。作者は深見じゅんで、講談社から文庫版全19巻が発行された。1991年には講談社漫画賞一般部門を受賞している。わたしは、女性の社会進出や男女差別問題を特に意識していたわけではないけど、ただただ面白くて、一旦読み始めると主人公田中麻理鈴(たなかまりりん)にドンドン惹きつけられて途中でやめられなくなり、朝まで一気に読みきってしまったことが何回もあった。
作者の深見じゅんさんが女性問題をどれくらい意識していたかわからないが、このコミックは恋の成就のために頑張る女性を描いたストーリーに加えて、はからずも男女差別、パワハラ問題、働き方などの社会問題を提起するコミックであると思う。
≪石田ひかり主演 平成版「悪女」≫
コミック連載中の1992年、石田ひかり主演のテレビドラマ放送が始まった。第1話でいきなり、石田演じる田中麻理鈴が、配属部署で初日に、「過労死するまで頑張ります」とあいさつした。また、男性社員のサポートをする秘書課に対して、「主婦みたい」と言ったり、目薬を差してウソ泣きをしたり、職場のオフィスで喫煙をしたりした。これが「悪女」の所以であると言われているが、周りを巻き込みながら困難な仕事をこなし、自分に敵意を抱いていた人たちを仲間にしてしまい、社内で出世しようとする麻理鈴のような女性こそ「悪女」なのではないか。30年前はまだ、たくさん働いて何が楽しいとか、出世よりそこそこがいいとしか言えなかった時代である。男女差別が当たり前だったあの時代、多くの女性が麻理鈴に共感し、コミックのみならず、テレビドラマも大ヒットした。
≪日本社会は田中麻理鈴に追いついたか?≫
1999年、男女共同参画社会基本法が施行。2019年には働き方改革関連法案の一部施行、翌2020年、大企業を対象に、そして今年4月には中小企業に対してパワハラ防止法が施行された。決して「悪女」が日本の法律制定に影響を与えたとは思わないが、田中麻理鈴がストーリーの中で経験するトラブルや苦労のほとんどは、読者や視聴者の好むと好まざるにかかわらず、これらの法律によって少しは改善されるのではなかろうか。