一方、中華人民共和国の国際的孤立作戦により、日本を含め殆どの国と国交関係を樹立していない台湾の人々は、国際のスポーツ競技大会を見るたびに、スポーツ界の差別的待遇、無念さを感じてしまう。1970年代以来、世界中の競技大会に出場するために、「中華台北」というチーム名を使わなければならないーー日本の代表団が「日本東京」の名前で出場するようにおかしいものである。
本来ならば、スポーツ選手が政治の要素により国際的に排除されないよう「中華台北」という名前を使用してきたが、この「台湾」でも「中華民国」でもない名前は当たり前に台湾の人に屈辱さえ感じさせる。2014年「ひまわり学生運動」以後、若者の本土意識は日に日に増し、果てには2018年に元五輪陸上メダリストの紀政(1944〜)氏などが「台湾という名前で東京五輪に参加する」という国民投票を起こした。ただそれは「選手は五輪に参加する資格を失う」というデマの流布や政治論争などで反対多数に終わった。
故に2021年の東京五輪の開幕式に、「チャイニーズタイペイ」選手団が登場するときにNHKのアナウンサーが「台湾です!」と言い放った時に、台湾の人々は積年の鬱憤が取り払われ、まさに胸が空く瞬間だった。東京五輪では金メダル2枚、銀メダル4枚、銅メダル6枚、合計12枚という史上最高の成績を残し、閉幕後もしばらく五輪フィーバーが続いた。
その数ヶ月後の北京冬季五輪では同じことがまた繰り返された。中国五輪委員会はルールに従い、台湾からの選手団を簡体字の「中华台北」と場内アナウンスで紹介した。しかし、中国の外務省や中国メディアは二枚舌で「中国台北」を連呼した。政治問題をスポーツに持ち込んだのである。選手団の呼称問題で当初は北京冬季五輪をボイコットするとも検討されたが、最終的には、台湾側の意見が受け入れられ、中国側と合意できたため出場した。それにもかかわらず、事前の約束を反故にされた。勿論、NHKのアナウンサーは東京五輪の時と同じく今回も「台湾です!」と紹介した。SNSサイトなどには人々の歓喜のコメントが溢れていた。しかし、前述のように、入賞する見込みが極めて低い台湾チームであっても、「台湾です!」と、自分のことを本当の名前で紹介される喜びは、何ものにも勝る「誇り」なのだ。負け惜しみであろうと、それは紛れもない「勝利」であるーーたとえ、この勝利は中国近代文学の父・魯迅曰く、自虐的な「精神勝利法」によるものだとしても。