ロシアのプーチン大統領は21日の演説で、「ウクライナという国家概念はフィクション」と言明し、ロシアの一部であると主張した。プーチン氏は、親ロシア派武装勢力が実行支配するウクライナ東部ドンバス地方(ドネツク州とルガンス州)の一部地域の独立を承認し、同時に「平和維持部隊」と称してロシア軍の派兵を大統領令で決定。さらに「祖国防衛の日」の23日、同氏はついに同地方での軍事作戦を実施すると国民に宣言した。第2次大戦後、欧州最大の危機とされる武力紛争の脅威が現実のものとなった。
ソ連が崩壊した1991年、独立したロシアやウクライナなど11の共和国は独立国家共同体(CIS)という緩やかな国家同盟を設立した。その際、互いの国家主権を尊重し、国境線を「不可侵」とすることで合意した。ところが、プーチン氏の言動はCIS合意を根底からひっくり返すものとなった。
親ロシア派武装勢力が一方的に独立宣言した「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」を承認した同日、プーチン氏はロシア国民に向けて1時間にわたり演説した。その中で、「今日のウクライナは全て、そして完全にロシアにより創作された。さらに具体的に言えば、共産主義ロシアのボリシェヴィキによるものだ」と持論を展開。「1917年の革命直後、このプロセスは実質的に始まった。さらに、レーニンとその仲間たちにより、最もおそまつな方法で、ロシア固有の歴史的領土を引き裂いた」と説いた。
だが、米ニューヨーク・タイムズはプーチン氏の解釈を「歴史の誤読」だと指摘。ウクライナとロシアは9世紀にバイキングたちが築いた最初のスラブ国家「キエフ大公国」にルーツを同じくするが、それから1000年の歴史の中で、ウクライナは宗教、国境、民族など複雑に変化してきたと同紙は解説する。
ウクライナの首都キエフはモスクワより数百年も前に建設され、ロシア人もウクライナ人もキエフを彼らの近代文化や宗教、言語などの誕生の地としている。また、同じキリスト教の正教会を信仰し、言語や慣習、料理など共通点も多い。
ところが、革命以前の帝政ロシア時代から、ウクライナ人としてのアイデンティティやナショナリズムがロシアにとっては苛立ちの種となっていると同紙は解説。ロシア人にとってウクライナ人は〝小さな弟〟であり、兄の言うことを聞くべき存在として認識しているとし、ロシアによる一方的な〝上下関係〟の押し付けがあることを示した。