2022-05-23 経済

空襲を想定? 全台湾人が参加する防空演習ー日本と台湾の〈そなえ〉1

© Photo Credit: Shutterstock / 達志影像

注目ポイント

日本と台湾の「防災」に対する意識や新しい動きを探る連載企画「日本と台湾の〈そなえ〉」。初回は台湾全土を挙げて40年以上実施されている防空演習を取り上げる。台湾への旅行時に遭遇した経験がある人もいるのでは?

日中の30分間、街が無人になる

「有事を想定した訓練」といっても、日本で暮らす多くの人には縁遠いだろう。国は地方公共団体などと連携して国民保護訓練を実施しているが、市民が関わることは稀で、実施地域も限られている。

一方、台湾で年に一度行われる「萬安演習」は、有事を想定して全土で行われる大規模な防空演習(訓練)だ。正式名称は「軍民聯合防空演習」で、戒厳令下の1978年に始まった。

台湾国防部(国防省)は、空襲などの緊急事態が発生した際の市民の対応の練度を高めて、国民の生命・財産の安全を確保するための演習と位置付けており、軍が中国軍の侵攻を想定して定例で行う軍事演習「漢光演習」と同時期に実施されることが多い。

演習は日中の30分間。「警報声号」(防空警報のサイレン)が鳴り、個々人の携帯電話にも警報メッセージが送信されると、演習のあいだは屋外での行動が許されず、鉄道は運行されるが、自動車やバイクなどの交通も制限される。

人目につきにくい路地裏では出歩く者がいたり、世間の注目を集めようと突飛な行動を取る者も現れたりするが、規定に反して演習に協力しない場合は、民防法第25条に基づき3万元から15万元(日本円で約13~65万円)の罰金が科される。

 

日常と隣り合わせにある脅威

「子どもの頃から当たり前に存在しているもの。だから、外出できなくて面倒という感覚もないし、規定を破ろうとも思わない」

台東県で暮らす30代の台湾人女性がこう語るように、多くの市民にとって萬安演習はことさら特別な行事ではない。

昨年9月の演習(萬安44號)は13時30分から14時まで実施された。例年、演習は日中に行われるため、勤め人なら仕事場、子どもたちは学校で参加することになり、屋内では昼食を取ったり仕事や勉強をしたりと、普段と変わらない日常が続いている。

ただし、屋外に広がる光景は、やはり異様だ。台北を拠点に活動するヴィデオ・アーティスト、袁廣鳴(ユェン・グァンミン)は、萬安演習を題材に「日常演習」という作品を制作している。2019年に愛知県で開催された国際芸術祭「あいちトリエンナーレ」にも出品されたヴィデオインスタレーションでは、防空警報のサイレンとともにドローンがとらえた萬安演習の最中の台北の様子が映し出される。

人、自動車、バイクで賑わっているはずの大都市が無人の街と化した姿。新型コロナ対策の都市封鎖(ロックダウン)の報道で似たような光景を目にする機会は増えたが、不穏なサイレンが鳴り響く街の映像は、日常と隣り合わせに脅威が存在する現実を突き付ける。

 

初めての「戦争」を想定した訓練

萬安演習のほかに、台湾では地震や台風などの自然災害に備えて、地方自治体や民間団体が連携する「民安演習」が毎年各地で行われるが、中央通訊社は、今年の演習では初めて「戦争」を想定した訓練が実施されると報じた。空襲や特殊部隊によって発電所などの重要施設が被害を受けたと想定したもので、ロシアによるウクライナ侵攻を受けて急遽、戦争の要素が加わったという。

こと日本においても台湾にもっとも近い与那国島では、台湾有事を想定した島民の避難計画が進められている。台中の緊張に世界的な注目が集まる中、「日常」だった演習への意識も変化するのだろうか。

 

オススメ記事:

現地取材で内地出身の新人記者が直面した沖縄の壁

「台湾なまり」のチベット人シンガーソングライターの憂鬱

沖縄返還から50年… 大国同士の対立の中で要塞化し続ける与那国島 ~米軍基地50年の歩み~

日本国内で台湾を楽しみ尽くす!台湾ガイドブック『おでかけ台湾in東京・京阪神』

月イチ連載「山本一郎の#台湾の件」第2回:長崎平戸に生まれた鄭成功と明清交代に見る台湾史への憧憬

あわせて読みたい