2022-03-04 経済

世界をリードする台湾半導体産業の本質に迫る。日台の協業によって見えてくる未来とは。------【東京台湾貿易センター陳英顯所長 特別インタビュー】

© Photo Credit: Reuters / 達志影像

「私が初めて日本に留学したのが80年代です。その当時は年間約1万人の台湾人が日本に留学していました。いまは約1千人です。当時は経営・ブランド・技術・サービスのすべてで日本企業は優れていました。留学から戻ると、あちこちから声がかかりました。いまも日本は優れていますが、大学院で学位を取ろうとする留学生は減っています。いま台湾にとって一番大切なのはハイテクとデジタル。この分野は米国がリードしています。台湾は産業革命には間に合いませんでしたが、デジタル革命に間に合った。この分野で専門性を深めていくには米国に行くことなんです。」

――日本は技術力が落ちているのでしょうか。

「いえ、日本の技術力は依然として高いと思います。日本は世界トップレベルの品質の製品づくりができる会社が何百社もあります。台湾の半導体が発展しているといっても、日本の素材、装置メーカーがいなければ成り立ちません。精密機械も非常に強いですし、ケミカルでは材料開発に何十年もの蓄積が必要ですから、ほかと取り換えがきかない。台湾製の自転車も世界で売れていますが、シマノの変速機がなければ自転車はできない。日本電産のモーター技術も他に真似はそうはできないでしょう」

――台湾が日本に学ぶべきものがまだたくさんあると。

「日本には非常に優れたところがたくさんあります。台湾が政府主導で進める半導体産業の発展計画というのは、実は日本に学んだものです。私は80年代、経済部(日本の経産省)の工業局に所属していましたが、そこの日本語チームに10人ほどいて、週1回日本の良いところを見習うための勉強会が開かれていました。一生懸命に日本語の新聞や雑誌を読み、日本の通産省(現経産省)とも若手同士で交流していました。当時担当だった局長、課長は優秀でよく勉強していた。リーダーシップを発揮し、技術がわかっていて、市場がわかっていて、10年後、20年後の未来が見えていたと思います」

台湾貿易センター東京事務所の陳英顕所長が半導体産業の動向と最近の政策について語った

――台日の協力関係をどう考えますか。

「国際競争を一つの国が単独で勝ち残るほど甘くはありません。台湾と米国との関係で言えば、米国はイノベーションや発明に注力するが、製造は台湾にまかせる。OEMだけでなく、ODM(相手先ブランドで設計から製造まで受託すること)によるアイデア形成も一緒にやってきました。そうした発想から、台湾でも2300万人を養えるような産業発展を考え、すべて自前主義にこだわるのではなく、東南アジア各国では台湾が人材育成や技術協力し、そこから製品を買っています。台日でもそうした協力関係を深めていけるはずです。アジアからみると、日本は民度が高くて素晴らしい文化がある。経済も悲観しすぎるほど悪いとは思いません。優秀な人材もいます。そして何より努力すれば生きていける社会が日本にはある。だからこそ、努力している人を応援していく社会の実現に台日が手を取り合って進んでいけばいいなと思っています」

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