「それでも台湾のIT人材はまだまだ足りません。2021年12月に台湾大学は半導体産業を支える高度な人材育成のために新たに大学院を開設しました。今後10年間で修士・博士レベルで約1千人を育成する計画です」


――台湾のIT企業の戦い方にも特徴があります。
「台湾が専業分業に特化してきたことも大きいと思います。TSMCは自社ブランドで製品を製造するのではなく、他社の半導体を受託生産するファウンドリービジネスに特化した黒子的な存在です。唯一無二の製品や技術であれば、自社ブランドで戦うやり方もあるのでしょうが、人口が2300万人しかいない台湾は内需市場が小さく、いきなり海外で自社ブランドを打ち出しても勝ち目は薄い。技術は常に変化しています。ブラックボックス化しても他国にいつか追いつかれる。だったら限られた経営資源をOEM(相手先ブランドによる製造)に特化してやっていくのが妥当な判断だとも言えるでしょう」
「それから台湾企業は創業者が経営の実権を握っているのも特徴的です。経営トップが知識や経験だけでなく、技術のこともわかっていて、合議制ではなく経営者がほとんど一人で判断していることも珍しくはありません。だから経営判断が速い。
――確かに莫大な投資が必要となる半導体産業では、何に優先的に取り組むのかという経営判断が大事になのでしょうね。
「半導体の世界では一つの生産ラインにかかる投資額が85億ドル(約9700億円)必要と言われています。線幅が5ナノの最先端にもなってくると160億ドル(約1兆8千億円)ともなってきます。メンテナンスにも費用がかかり、それに人件費もかかる。黒字でも赤字でも投資の継続が必要なのですが、日本はそれができなくなった。ですが、米中貿易摩擦などで世界の秩序が大きく影響を受けるなかで、これまでのようなグローバルな分業体制は難しくなり、各国が自前でサプライチェーンを構築する時代に入りつつある。そうなってくると民間企業だけで体制を整備していくのは難しい。そうした意味で、半導体産業の復活に向けて日本政府が支援するのは正しい方向だと思います。予算規模がまだまだ足りないようには見えますけども」

――日本の人材育成という面では、台湾からはどう見えていますか。
「日本は資本主義だが、大卒はみな初任給が一緒です。それは30年前も変わらない。台湾では理工系の人材は優遇され、初任給から文系に比べ少なくとも3割は高い。5年、10年とたてば、その差はもっと開きます。それはイノベーションが国の将来を支えているからです。優秀な人材は特別に優遇する必要がある。そこに平等主義は必要ありません。国が半導体産業の復活を真剣に考えているのであれば、若い優秀な人が入っていく環境整備を国と民間の双方で考えていく必要があると思います」