半導体の受託生産で世界最大手のTSMC(台湾積体電路製造)が日本で脚光を浴びている。かつて世界で覇を唱えた「日の丸半導体」は凋落し、技術や人材など多くの面で日本を追う立場だった台湾IT産業の雄が、世界的な半導体不足や経済安全保障の側面から危機感を強める日本政府から三顧の礼で迎えられ、最大4000億円という巨額の補助金を引き出す異例の形で日本に生産拠点を置くことに応じたのだ。半導体分野で日台のパワーバランスが変化するなかで、台湾は「ものづくり立国・日本」をどう見つめているのだろうか。台湾貿易センター東京事務所の陳英顕所長に話を聞いた。

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――TSMCをはじめ、台湾のIT産業には近年勢いが感じられます。
「新型コロナウイルスの影響で世界各国がマイナス成長を余儀なくされるなかで、台湾の経済成長率は2020年に3.1%、2021年には6.4%と堅調に推移しました。一人あたりGDP(国内総生産)は初めて3万米ドルを超え、スペインやポルトガルよりも高い水準にまで到達しました。そんななかで台湾の電子部品・半導体ICの21年の成長率は米中摩擦やコロナによる世界的な半導体不足の影響などで前年比27%の大幅増となりました。台湾企業の売上高上位10社のうち8社がEMS(電子機器受託生産)か半導体関連となっています。1兆円規模で海外と取引している多国籍企業もITを中心に広がりをみせています。ちなみにTSMCは21年の最終損益で2兆円の黒字です」

――TSMCに限らず、隠れた優良企業が多いということですね。
「はい。たとえば台湾のメディアテック(聯発科技)という会社。こちらはIC設計に強いファブレスメーカーでスマートフォンやテレビ向けにICチップを世界中に供給しています。ほかにも半導体専門商社のWPG(大聯大)は世界中に強力な販売網を構築し、2016年から業界では世界トップです。スタートアップ企業でも中小企業でも、電子部品の調達を考える際にこの会社抜きにはビジネスは語れません」

――かつて日本が世界をリードした半導体チップの微細化技術ですが、いまや10ナノ以下の回路線幅で量産できるのはTSMCと韓国のサムスン電子しかありません。TSMCはどのようにしてそうした先端技術を磨いてきたのですか。
「その要因の一つは人材重視です。TSMCでは全社員約8万人の中で博士号が5%、修士号が43%いますが、それも国立大出身ばかりです。TSMCでは一番優秀な社員が工場に配置されていますが、米国や日本の工場現場だとそうではないかもしれません。もちろん、優秀な人材を集めるわけですから給与体系も日本のメーカーとは大きく違います。本給と賞与以外に奨励金というのがあって、奨励金は賞与とは別に毎四半期支給されます。奨励金を毎月の業績に応じて毎月支給する会社もあり、その金額が本給の2倍なんてことも起きています。能力主義を徹底することで、会社の全社員の上位10%が下位10%の報酬の3倍になるような仕組みをとっています」