2022-05-18 ライフ

月イチ連載「カセットテープから台湾がきこえてくる」第2回:黃韻玲『藍色啤酒海』

今回、紹介するカセットテープは黃韻玲(Kay Huang、カイ・ハン)さんの「藍色啤酒海」です。日本語で直訳すると「青いビールの海」というタイトル。このカイ・ハンさんは台湾を代表するミュージシャンなのですが、元々は作曲家、シンガーソングライターとしてデビューしましたが、今となってはかなりの大御所で、音楽アワードの審査員をするような方です。日本のお笑いにたとえると、M-1の審査員の松本人志ですかね。多分違いますが。

最近、文化部のサポートによって台北流行音楽中心(TAIPEI MUSIC CENTER)という収容人数6,000人規模のホール施設ができましたが、カイ・ハンさんはそこの初代理事長に就任しています。ここまでの説明で、彼女が権威的な人物であるように感じられるかもしれませんが、台湾における権威は、あまり権威的じゃないというか。カイ・ハンさんはずっと純粋に音楽という軸からブレずに、台湾に自由な風を吹かせてきた人なんです。

今回このカセットをピックアップした大きな理由の一つとして、初夏に、ビールを飲んで爽やかな気分に浸りたいときにこの作品を聴いたらいいような気がして。おもしろいのが、中の歌詞カードに煽るように「ビールなしじゃお前乗り遅れるぞ」と書いてあるんですよ(笑)。

こんなにビールを推すことってあります? 普通はサイダーとかソーダだと思うんです、ポップミュージックで爽やかさを表すアイコンって。ビールを推しているところが、ある種成熟しているというか洗礼されているというか、自由な雰囲気をアピールしています。1980年に設立された滾石唱片(ロックレコード)というレコード会社からのリリースですが、このような作風の音楽作品が、戒厳令が解かれた年である1987年に出たというのが、台湾の歴史上、自由を象徴する出来事なんじゃないかと思います。

カセットの再生ボタンを押すとすぐわかるのは、様々な音楽の要素が入っているということ。ジャケットには「新音楽主義・風流ロック」というキャッチコピーがありますが、実際に聴いてみると、ポップスにフュージョン、ジャズ、サンバなど、色んな異国の音楽的要素が合わさって、風通しの良い内容になっています。

実は、先日僕は「アジア都市音楽ディスクガイド」という本を出したんですけど、カイ・ハンさんがfacebookでそのことについて投稿してくれたんです。「90年代懐かしいねー」みたいに書いてくださって。ただ、文末に「音楽っていつの時代も新しいのが一番良いよ」ってハッシュタグで書いてて(笑)。ちょっと皮肉というか。古いものだけではなく「今」の台湾の音楽にも注目して欲しいというメッセージを受け取りました。

 

 

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