注目ポイント
2018年に沖縄書店大賞・沖縄部門を受賞した『沖縄アンダーグラウンド 売春街を生きた者たち』や、約3年にわたる新聞連載をまとめた沖縄ゆかりの人々のルポルタージュ『沖縄ひとモノガタリ』など、沖縄関連の著作も多いノンフィクションライターの藤井誠二さんに、沖縄を取材する中で感じることや、本土出身者だからこそ見えてくる沖縄のありようについて聞いた。
どれだけ真摯に沖縄を知ろうとしているのか
1990年ごろから沖縄に通い始め、今では教鞭を執る大学の授業が忙しくなる時期を除き、月のほぼ半分を沖縄で暮らす二拠点生活を送っている藤井さん。そんな藤井さんにとって、沖縄について描いた初めての本格的なルポルタージュが、2018年に上梓した『沖縄アンダーグラウンド 売春街を生きた者たち』だ。
「真栄原新町」(宜野湾市)をはじめ、県内に点在する売買春を行う特飲街(特殊飲食店街)で生きた人々の証言や史料を丹念に集め、アメリカ占領下で形成された特飲街の盛衰から、アメリカと日本に翻弄され続ける沖縄の犠牲や差別の構造を冷静な筆致で浮かび上がらせた。
一部の県民から「沖縄の恥部」とまで蔑まれた裏の世界の取材は、2010年暮れ、真栄原新町が「浄化活動」で消えてしまうと耳にしたことから始まる。取材者として戦後沖縄の一断面にコミットし始めると、「当然、沖縄と自分との関係を考えざるを得なくなった」と藤井さんは振り返る。
「個人的に親しい間柄は別として、年配の人にとくに多いのですが、ヤマト(本土)に対して良い印象を持っていない人が少なくないし、僕みたいに『ヤマトから来たフリーランスの男』に面白おかしく書かれるのではないかと警戒されました」
扱うテーマゆえの難しさに、本土の人間という立ち位置。「なぜ日本(ヤマト)に良い感情を持っていないのか、毎日考えていた」という藤井さんは、ある雑誌に寄稿した取材の途中経過をまとめた短編ルポを数百部コピーし、それを読んでもらうことで取材対象者との信頼関係を築いていくための端緒を探していく過程も同著で描いている。
「あからさまに言われたわけではないけれど、『ヤマトの人間にはわからん』って切られてしまうこともあった。沖縄を深く取材した人間なら、一度や二度は経験していると思います。だからといって予備知識をつけていればいいという問題ではない。沖縄の社会も一枚岩ではありません。自分がどれくらい真摯に沖縄のことを知ろうとしているのか、声を聞こうとしているのかを試されていたのかもしれない」
沖縄/本土だけではない分断
沖縄は、琉球王国から薩摩藩による侵略と琉球処分で最初の「大和世(ゆー)」が始まり、太平洋戦争末期、国内唯一の地上戦で20万人を超す犠牲者を出した沖縄戦後の「アメリカ世」、1972年の本土復帰から再び「大和世」と、激動の世替わりを経験してきた。