2022-05-10 経済

「プーチンに残されたのは勝利という信仰」 亡命したロシア人編集長が戦勝記念日に解説

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注目ポイント

ロシアの対ドイツ戦勝記念日の9日、英紙ガーディアンなど複数の欧州メディアは、ロシアで発行禁止となった独立系新聞ノーヴァヤ・ガゼータの記者らが西側で立ち上げたニュースサイトの論説を転載。ウクライナ侵攻が計画通りに進まず、追い詰められるプーチン露大統領が求めるものは何なのか、ロシア人ジャーナリストが論説の中で詳しく解説した。

モスクワ・クレムリンの「赤の広場」で行われた対ドイツ戦勝記念式典。プーチン氏は厳しい表情で、「あなた方は祖国のために戦っている」と直立不動で整列した1万1000人の兵員に語りかけ、同時に国民に向けて団結を呼びかけた。約10分間のプーチン氏の演説では、一部で予想されたウクライナへの「戦争宣言」や「国民総動員」についての発言はなく、同国への侵攻については「ネオナチからロシアを守るため」と正当化するに留まった。

ロシアの戦勝記念日は1年で最も愛国心を高める祝日とされるが、ウクライナ侵攻が計画通りに進まない状況下、例年のような祝賀ムードはなく、交戦中の緊張した雰囲気だけが会場全体を包んだ。

そんな中、欧州メディアは同日、独立系ロシアニュースサイト「ノーヴァヤ・ガゼータ・ヨーロッパ」のキリル・マルティノフ編集長による英文の論説を紹介した。旧ソビエト連邦最後の最高指導者ゴルバチョフ氏が、新生ロシア誕生後の1993年、資金提供して発足したリベラル紙ノーヴァヤ・ガゼータは、2月のウクライナ侵攻に反対の立場を表明。ロシア国内で発禁となったため、亡命した記者たちが西側で新たに立ち上げたのが同サイトだ。

マルティノフ氏の論説は、「ウラジミール・プーチンに残されたものは勝利という邪悪な信仰だけ」との見出しで、「今日のロシアの戦勝記念日で称えられた神話は、プーチンがロシアを永遠に支配するための支えとなる必要不可欠なストーリーとなった」と前置き。以下はマルティノフ氏の論説の抜粋だ。

ある時点でプーチン氏は無期限に権力を持ち続けることを決意した。選挙の度に「これが最後だ」とし、大統領任期を2期までと定めた93年のロシア憲法を改憲する意思はないと嘘をついてきた。

永久支配のための最初の戦略は、2000年代後半にピークを迎えたような、国民が裕福になることを容認することだった。だが、一部が巨額の富を得ただけで経済成長が止まると、今度はプロパガンダを持ち出した。

ロシア人が西洋化することや、欧州という人種のるつぼで溶解することを阻止できる唯一の指導者が不可欠で最重要だとする己の信条を主張するため、プーチン氏は〝伝統的価値観〟を引っ張り出した。

また、自分に与えられた特別な歴史的使命である「大ロシアの構築」という自身が作り上げたプロパガンダを信じるに至ったのだ。それは新たなソビエト連邦ではなく、新しいイデオロギーでもなく、中央アジアの再植民地化でもない。その大ロシアとは米国と中国に次ぐ世界第3のスーパーパワーと位置付けるファンタジーだ。

そんなプーチン氏の〝伝統的価値観〟とは詰まるところ、同性愛者への嫌悪感である「ホモフォビア」と「勝利という信仰」の2つだ。だが、同性愛者迫害が、強い指導者の永久支配につながる戦略ではないことは明白だ。そのため、プーチン氏に残されたのは「勝利という信仰」だけだった。

そして、それは徐々に具体化した。ロシア軍国主義という〝歌劇〟は、テレビを通してプロパガンダとなった。多くの専門家とされる人たちが、「ロシアは世界一強い」「われわれは誰からも指図されない」「ロシアのミサイルは地球を周回して、どの国でも破壊できる」などと主張した。馬鹿げているが、プーチン氏の演説もますます極右政治家・故ウラジーミル・ジリノフスキー氏のものに似てきた。

いまではプーチン氏は経済発展のような面白味のない話はしなくなり、〝比類のない〟新兵器についての話題には饒舌となり、「ロシアはもう一度やる」というフレーズがスローガンとなった。これは明らかに第2次大戦でソ連がナチス・ドイツを打ち破ったことを示し、再びやり遂げるというメッセージだ。

プーチン氏はこれまで4度の大統領選に勝利し、5度目を24年に迎える。だが、新型コロナウイルスの感染拡大はロシアで多くの犠牲者を出し、経済は行き詰った。プーチン氏に残された選択は限られている。権力を維持する最も有効な手段は「偉大な勝利の再現」だと結論付けたのだ。そのためには9日の戦勝パレードは十分ではなく、もっと血のイメージが必要なのだ。

もしロシア人がプロパガンダを信じられなくなったとしたら、伝統的価値観も戦勝記念日に英雄化された国家も信じられなくなる。そこに残るのは「核のスーツケース」を手にぶら下げ、腐敗政治という瓦礫の中をさまよう危険な人物だけだ。それを誰が信じるというのだ。

われわれは一体何者なのか。なぜこういう事態を許してしまったのか。それに答えるのは怖いことだ。ロシア人は最後の最後まで自分たちの神話にすがりつくだろう。そんな中、戦勝記念パレードに魅了され、大衆は陶酔する。

 

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