2022-02-10 ライフ

近寄り難い「抽象芸術」とは今日の創造における最も分かりやすい表現方法である

© REUTERS/TPG Images

注目ポイント

現代芸術の時代に入り私たちは美的経験から遠ざかり、より哲学的な思考になりつつある。芸術家たちは様々なジャンルに目を向け始め、全てが芸術になる時代が到来しようとしている。それに伴い、芸術はより混沌と不明確なものになろうとしているのだ。

 


鑑賞者が抽象芸術を“怖い”と感じるのはなぜか?抽象芸術が形而上学(形のないもの)の一種だから?人類の経験で知りえる範囲を超えたから?答えがそうではないことを私たちは、美術史の中からはっきりと知ることが出来る。


まず、抽象芸術を理解するためには、歴史的な観点から見る必要がある。これは非常に興味深く、かつ複雑な過程でもある。複数の芸術流派が融合することで、最終的に抽象芸術の発展が進んだ。抽象絵画は、近代主義の最高峰であり、そこに登るのは少しの勇気が必要だろう。今こそ、その勇気を! 抽象芸術の背景にある、過去と現在を見てみよう。


歴史を振り返った時に、芸術の世界が少し質を変えた時期がある--それは写真だ。ルイ・ダゲールによって発明されたダゲレオタイプ法以来、撮影技術の進歩により、外界はほぼ「現実」として再現され、鮮明な画像が平面的な物に印刷された。


ルネサンス以来、芸術家たちが平面上で再現しようとした「現実」は、突然その意味を失い、現実を再現するために一点透視図法や空気遠近法、スフマート法などの技術を研究・開発した。しかし、写真技術は古典技術の全てを破壊した。なぜなら、絵画がどれだけリアルでも、写真の繊細さにはかなわないからだ。この時、多くの芸術家たちが考え始めたのは、もし「現実」を表現出来ないのであれば、どのような形で人々に表現すべきなのだろうか?


20世紀初頭、フォーヴィズムは伝統的な絵画の色使いから脱却し、多数の彩度の高い色を大胆に使用し、細部を省略し影を取り除いた。キュビズムは様々な角度から見たものを一つの画面に描いたもので、西洋美術の概念や描く対象を崩壊させ、空間を平面にする。未来派(フューチャリズム)は、産業革命以降、機械美や物体の動きを表現し、細かく重ね合わせる手法で全体像の中にスピード感を創り出した。


新世紀と旧世紀の交差地点では、完全なる抽象とは言えないものの、芸術家たちが絵の構成において具体的な表現をしていないということが読み取れる。抽象化に加えて芸術家たちは独自の表現方法を足し始めており、それぞれ個人の感情が作品上に反映されている。


これは工業や科学の進歩によるものであり、同時に芸術家の思考論理や私たち鑑賞者の見方に影響を与えるものである。また、それは芸術史の中で新しいページを作り、現在一般の人々に馴染みのある多くの芸術家の最盛期でもあった。


第一次世界大戦前後、ロシアの抽象派、構成主義、シュプレマティスムなどの重要な抽象芸術の発展が始まった。

© Assily Kandinsky,構成第八號,1923

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