米国の映画産業と中国共産党の関係に鋭く迫った話題の新刊本「Red Carpet(レッドカーペット)」(エリック・シュワ―ツェル著=ペンギン・プレスから8日発売)を米紙ワシントン・ポストが紹介した。その関係は第2次大戦前、ハリウッドを経済力で屈服させた、あのドイツの権威主義体制を思い起こさせるとした。
戦前、ドイツはハリウッドにとって最も重要な市場の一つだった。米大手映画会社ユニバーサルは1930年、第1次大戦の敗戦国ドイツの悲劇を描いた独作家エーリヒ・マリア・レマルクによる反戦小説「西部戦線異状なし」を映画化。同社はドイツでも大ヒット間違いなしと確信していた。
ところが、力を持ち始めた国民社会主義ドイツ労働者党(ナチス党)の反応は、想定外のものだった。まだ政権掌握の3年前だったが、同党宣伝部長ゲッベルスはこの映画の公開初日、劇場に集まった〝褐色シャツ隊〟と呼ばれた党の準軍事組織「突撃隊」の隊員たちを前に、「ハリウッドが名声を汚すために、ドイツにやってきたぞ」と語気を強め、同作品に不満を爆発させた。
これに驚いたユニバーサルは、ナチス党を刺激した部分をカットし再編集した。だが、ナショナリズムが高まるドイツの当局は、検閲後のバージョンを世界向けにも配給するよう要求。以降、全てのハリウッド映画がそのルールに従うことになり、ドイツ側が気に入らないものは配給契約を一方的に解除することを可能とする法令も施行された。
ゲッベルスは映画の力を理解していたという。「映画は最も近代的で大衆に影響力を与える手段」とし、「それゆえ政府は映画界を野放しにしておけない」と説いた。文化大革命下、毛沢東も映画産業を国営化。その後、米映画が中国国内に流入すると、1990年代には経済力にものを言わせ、ハリウッド支配を試みる。
「レッドカーペット」の著者は、ナチス党と中国共産党を単純比較することには慎重だが、ワシントン・ポストは中国によるウイグル人への民族浄化や、チベットでの弾圧を例に挙げ、「必ずしも慎重になる必要はない」と指摘。その上で、「中国をめぐるハリウッドの労苦を知っていれば、中国とドイツの抑圧行動の共通点に気づくだろう」と解説した。
同著がナチス党と中国共産党の共通点の典型例として取り上げたのは、マーティン・スコセッシ監督が、チベットのダライ・ラマ14世の半生を描いたディズニー映画「クンドゥン」(1997年)だ。同作がクランクインするや、中国政府はディズニーに圧力をかけ、製作を止めるよう求め、応じない場合はディズニーを中国市場から締め出すというカードをちらつかせた。すると当時ディズニーの最高経営責任者(CEO)だったマイケル・アイズナー氏はこの作品を事実上〝抹殺〟し、その経済力にひれ伏した。