今年1月。台湾の漫画『用九柑仔店』の日本語翻訳版『用九商店(ようきゅうしょうてん)』が発売された。祖父が倒れたことがきっかけで、台北から田舎に戻った俊龍(ジュンロン)。祖父が長年営んできた雑貨店を継ぐ決心をし奮闘する青年と、彼を囲む人達を描いたストーリーになっている。
株式会社トゥーヴァージンズ
著:阮光民(ルアン・グアンミン)/訳:沢井メグ
台湾では2016年から連載が始まった漫画。全5巻。
2019年には台湾でドラマ化もされ、日本でも『いつでも君を待っている』というタイトルで放送&DVD販売中だ。
登場人物達は、とにかく愛おしくなる人ばかり。読み進めながら何度も心を鷲掴みにされる。各々のキャラクターの過去もさりげなく盛り込まれていて、自然とストーリーに感情移入してしまう。力強いタッチの絵柄からは様々な感情がダイレクトに伝わってくるようだ。また、これは翻訳が素晴らしいことも大いに手伝っているのだと感じる。中国語のニュアンスや台湾ならではの言葉遣い、キャラクターの人間性や空気感を大切にしながら翻訳されているところにも、ぜひ注目してほしい。

作中に描かれている台湾からは、田舎だとわかる。作品の舞台は雲林(ユンリン)県という場所で、「台湾の中でも田舎だよ」と台湾の友人から聞いたことがある(作者・阮光民さんの出身地は雲林県である)。私たちが台湾旅行で行く場所や、見る視点とも違う部分が多い。作中の風景や登場人物たちの職業・服装・持ち物・食事などから、さりげなく台湾の地方の暮らしや文化を知ることができるだろう。
ちなみに、作者のInstagramに「日本語版、細かい部分にまで手をいれてくれていて感動!」という書き込みがされていた。漫画の中では、台湾文化の補足説明も丁寧にいれてくれているので、台湾のことを良く知らない方にも安心してオススメができる作品だ。

小さなころから見守ってきてくれた人に囲まれ、奮闘する主人公。
各々がちょうど良い距離感で(いい意味での)おせっかいを焼き合い、熱い優しさで彼の奮闘を見守る姿も、台湾らしい「熱情(ルーチン)」を思い起こさせる。
この「熱情」という中国語は直訳すると「情熱」「熱情」という意味だが、実際には「熱い想い」「熱心なもてなし」など、「その対象に対する熱のこもった行動や気持ち」を指す言葉だと私は解釈している。
主人公の俊龍を取り巻く人物たちの、溢れる「熱情」を、ぜひ『用九商店』を通して感じて欲しい。