2022-05-03 ライフ

生活が家を豊かにする

建築の設計を生業にしていると、いろんなクライアントと仕事をすることになります。

多くのクライアントは、完成予想図を見て、竣工後のモノの少ない生活像に憧れを抱いています。でもそれだと引き渡したときが完成で、生活しだすと物が増えて、傷が増えてどんどん劣化していくように捉えられがちです。では逆に、生活によってどんどん素敵になっていく家ってどんなものなのでしょうか?

そもそも「家」ってなんだろうか?

「家」という言葉はいろんな状況で使われます。住んでいる家の物体を表す場合や家族や家系を表す場合もあります。家族を表す場合も、物体を指すこともあるし、その関係性を指すこともあります。またその中に自分も含まれています。

つまり「家」は見える物体も見えない関係をも含んだ言葉なのです。もちろん物体としては、時が経つごとに傷ついたりもしますが、たまにメンテナンスをして、また違うものになったり。人の関係性も日々変わっていきます。だからこそ「家」はずっと変化しているのです。

「家」と呼んでいる物体の中だけで起こることが「家」ではありません。

暮らしている場所の周りにも住人がいて、挨拶したり、ごみを出したり、道を掃除したり、庭の手入れをしたり、家の周りの飲食店でご飯を食べたり、散歩したり。

日本の解剖学者の養老孟司さんが「農業をしている人は自分の家の畑で採れたものを食べているから、前の畑も自分だと思っている」と取材で応えていたのを見て、ぽん、と膝を打ちました。そう考えると、「家」の中に町が含まれているのです。(fig1)
 

(fig1)

そんなことを考えながら自分も住む場所を建てる機会を得ました。

現在の僕の住まいは自分自身で設計し、一部施工もしました。神奈川県川崎市川崎区にあります。川崎区という町は港側に工場地帯があり、今でも町工場がちらほら動いています。しかし、東京や横浜へのアクセスがよいため、近年ではそういった町工場が、建売の戸建住宅に建て替わり、マンションに建て替わっています。戸建住宅も外壁はサイディングだけれども住宅ごとに色やパターンが違い、街並みとしてのちぐはぐさが目立ちます。その過渡期の中で、町の中に様々なスケール感や色があり、それがとても豊かなことに思え、空間の中にも取り入れたい、と考えました。(fig2)

(fig2)

真ん中に鉄骨柱のある、田の字(four-square-grid)のプランで、がらんとした空間です。外形は敷地境界線や周辺の建物にも光が入るように角を斜めにカットしています(fig3)。構造的に必要な壁は外周部だけで、誰でも真似できるようなシンプルな構成です(fig4)。

(fig3)

(fig4)

1Fに働いたり、会合で使ったりするような道と連続する場所と、1MFに書斎と洗面所・お風呂、2FにLDKと寝る場所があります(fig5,6)。2Fに行くほどプライベート性が強いのですが、天井高が高く、窓が大きいため、家の中にいる、というよりかは町の屋根と共にあるような内観が特徴的です(fig7)。

(fig5)

(fig6)

(fig7)

構造的に重要なところは大工さんが作っており、壁の塗装や天井のアルミホイル(fig8)、階段や建具、キッチンなど、ホームセンターで作れる材料で自分でも施工をしています(fig9)。独特の手作り感によってこれからものが多くなっても受け入れられるような感じが出ています。またどれだけ床の周りが猥雑で物があっても、高い天井と壁によって抽象性が保たれている感じがします(fig10)。

(fig8)

(fig9)

(fig10)

ここでは生活しながら壁に押し花を貼ったり(fig11)、仕事で頂く建材のサンプルを貼ってみたり(fig12,13)、豆腐パックを使って、モルタルのタイルを作って貼ったりと(fig14)、生活することと作ることが密接につながるように意識して生活しています。

(fig11)

(fig12)

(fig13)

(fig14)

周辺の環境から導き出された誰でも真似できるシンプルな住宅が、生活によってかけがえのないモノになっていく。他の住宅もそうやって少しずつかけがえのないモノとなって、町の中もちょっとずつ変わっていって、そうして関係しあいながら、生活が「家」を育んでいく。そういった活動全体を僕は「家」だと思っています。

 

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