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ロシア軍の侵攻に対しウクライナ軍が徹底抗戦する中、今度はウクライナの西隣モルドバにある親ロシア派が支配する地域が新たな焦点として浮上している。「沿ドニエストル共和国」という、国際的にはほとんど承認されていない分離国家だ。ここで今週、何者かによる連続爆破テロが発生、親欧米派政権のモルドバでは緊張が高まっている。
「沿ドニエストル共和国」とは、モルドバ東端を流れるドニエストル川とウクライナ西南部の国境との間にある細長い土地で、トランスニストリアと呼ばれる。ソビエト連邦崩壊後、この地域は独立したモルドバと対立。両者の緊張は1992年3月に戦争に発展し、4か月間の戦闘の後に停戦。ロシア、モルドバ、トランスニストリアの三者は合同調整委員会を設置し、地域を非武装地帯として監視してきた。
2015年のデータによると、民族比はおよそロシア人34%、モルドバ人33%、ウクライナ人26・7%となっている。そのトランスニストリアで25~26日にかけて、ロシアのラジオ放送を受信するための電波塔や空港施設、国家保安省が相次いで爆破されるという軍事テロが発生した。死傷者はでていないという。
米紙ワシントン・ポストによると、事態のエスカレーションを避けるため、モルドバのサンドゥ大統領は緊急の安全保障会議を招集し、その後の会見で、「(トランスニストリアには)緊張があり、(爆破の)首謀者らはこの地域の情勢のさらなる不安定化を狙っている」と非難した。
ウクライナへの軍事支援をめぐる協議のため、ドイツに滞在していた米国のオースティン国防長官は26日、米国は爆発の原因を調査中で、現時点では「何が起きているか、まだ分からない」と述べた。その上で、「確かなことは、これが波及しないことだ。大事なことは、ウクライナが成功するために、やれることを全てやることだ」と述べた。
米国防総省のカービー報道官も米CNNとのインタビューで26日、「現段階では何が起きたか、誰がやったかを特定するには至っていない」とし、「できる限り監視を続ける」と語った。
ワシントン・ポスト紙によると、ロシア軍の司令官の1人は先週、ウクライナ南部からトランスニストリアにつなぐ人道回廊の実現を目標としていると発言。人口約50万人のトランスニストリアには約1500人のロシア軍が駐屯しているとされる。
同紙は司令官の発言がプーチン露大統領の命を受けてのものだったかは不明だとしながらも、ウクライナ側はクレムリンが進める領土拡大という野望の裏付けだとし、モルドバはロシア大使を呼び、「深い懸念」を伝えた。
現時点で、爆破について誰も犯行声明を出していないが、モルドバ政府は、「トランスニストリア地域周辺の治安を厳重化するという口実作り」の可能性を指摘し、ウクライナ国防省は爆破が「ロシアの特別部隊による計画的挑発行為」だと名指しした。