いつの時代も、どこの国でも、マスコミによる誤報はある。日本の誤報について言えば、古いところでは、世紀の大誤報「光文事件」がある。1926年、大正天皇崩御の際、大正の次の元号を「光文に決定」と東京日日新聞(今の毎日新聞)が報じたのである。もちろん、ご存じの通り、大正の次は昭和である。この誤報で編集局主幹が辞任した。多くのマスコミや国民が怒り、呆れかえった「サンゴ事件」は1989年に沖縄県西表島で、朝日新聞のカメラマンが自作自演でサンゴに「K・Y」と落書きして傷つけ、日本人は精神が貧しく、心がすさんでいると報道した事件である。この結果、社長が辞任している。最近では、2019年12月にNHKが「北朝鮮からミサイルが飛来したもよう」と誤って速報した。この誤報で報道局長らが懲戒処分となった。
ここ台湾でも、残念ながら誤報や虚報は少なくない。4月20日朝、中華電視(中華テレビ)で、とんでもない誤報が連続して流れた。朝7時ごろ、ニュース番組放送中に画面下のテロップに流れてきたのは、
「中国共産軍が新北市にミサイルを撃ち込み、台北港に着弾、施設や船舶に被害」である。俄かに信じられなく、画面を凝視していると、今度は、
「板橋駅に中国工作員が放火、爆弾を仕掛けた」のテロップが出てきた。しかし、テレビ局も女性アナウンサーも世間も、慌てふためいたり、パニックになったりすることもなく、また爆発音や煙などもなく、町はいつもと変わらぬ水曜日の朝であった。あれはいったい何だったんだろう、見間違いだったのか、などと思っていると、今度は同じ局の朝9時ごろのニュース番組で、
「今朝早く、台北市にこぶし大の雹が降る。市内の交通大混乱」。続いて、「大屯山(台北市西北端に位置する陽明山国家公園内にある火山)が噴火、溶岩が流出」のテロップが。これは訓練か、間違いか、それとも本当に歴史的な日になるのか、なんて思っているうちに、LINEグループやFBで友人から誤報だと知らされた。世界中で誤報が日常茶飯事とは言え、ウクライナがこんな状態の時、こんな内容の誤報は国民に恐怖を与え、取り返しのつかない状況に陥ってしまうのではないかと心配したが、中華電視に寄せられた苦情はたった10件であった。しかし、董事長(会長)と、総経理(社長)は複数のメディアで謝罪したうえで辞任し、誤報の責任を取る形で幕引きを図った。政府は放送法違反の容疑で調査を始めた。もし罪が認められれば、最高で200万元(約880万円)の罰金が科されることになる。中華電視と新北市消防局は、戦争や自然災害を国民に迅速に知らせるために事前に緊急テロップを共同作成していたが、この予定稿が、なんらかの人為的ミスで放送中に画面に流れてしまったことが原因であると発表された。