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2022-04-26 ライフ

連載「いちにの算数いーあるさんすー」 台湾ルネサンス時評:林森北路のヒロ⑤

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手始めに、通りを何度か往復してみたが、「ジャーン!」と小道からヒロが突然、現れることはなかった。

中華系の日本語が話せるおばちゃんのポン引きにヒロのことを聞いてみた。しかし情報を得ることはできなかった。知らないとの一点張りだった。しかし、そこにはかすかな「かたくなさ」が見て取れた。僕の錯覚かもしれない。しかし、触れてくれるな、というサインが僕には確かに感じられた。

しかたなく、昔もらった名刺の電話番号に僕は電話することにした。しかし何度電話してもヒロは出なかった。こうなったら、ウェブに頼るしかない。インターネットで、ヒロを検索しても見事なほどにまったく情報が出てこない。しかし、日本人とおぼしき名前の客引きがヒットした。名前は、星野亮と言った。名前は違うがもしかしたらヒロが改名して新しくやっているのかもしれない。僕はその客引きが公開しているLINEにコンタクトをとった。日本語でやり取りしてきたので、もしかしたら本当にヒロかもしれない。さすがにすぐにヒロですか?と聞くと警戒される恐れがあるので、まずは、直接会うことを目指し、会話を進めた。

すると、あるマンションの一室に呼び出された。それは林森北路からやや北に進み、農安街という筋を西に進んだところにあった。呼び出されたマンションのドアを開けると、なんと、中華系の人物がいた。ヒロではなかった。会話も翻訳機でなされた。しかたなく、僕は

「你知道hiro嗎?(あなたはヒロを知っていますか?)」

と訪ねたが

「不知道(知らない)」

とそっけない答え。あてが外れてしまった。こうなっては、ここにようはない。

僕は、適当な理由をつけて、マンションをあとにした。

一体ヒロはどこにいってしまったのか。麻薬で捕まってしまったのか。それとも、縄張り争いに巻き込まれてどこかに……。そして弟子はどうしているのか。今となっては何もかもが夢のように思える。台北の夜の街に一瞬だけ存在した日本人の客引き。それも台湾の自由さを象徴する人物だったことだったことだけは確かだ。いつかまたヒロに会うことができたら、僕は、人生楽しんでるかい?と聞いてみたい。(了)

 


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