2022-04-19 ライフ

連載「いちにの算数いーあるさんすー」 台湾ルネサンス時評:林森北路のヒロ④

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「おい、コーラ買ってこい!」

突如、ヒロが、横にいた男に剣幕になって命令した。

ヒロには弟子がいた。この弟子がまた、実に頼りないのだ。見ていて不憫になるほど……。僕らが移動するときに、タクシーのドアもまともに開けられなかった。彼は、台湾師範大学で語学留学するために渡台したが、落ちこぼれニートになって林森北路を彷徨っていたところをヒロに拾われたという。彼のこの先の人生を思うと、心配せずにはいられなかったが、僕がとやかくいう資格はない。ヒロに任せるしかない。

「そろそろどうするか決めてもらえませんか」

ヒロが、差し出した、選択肢から僕らはどれか選ばなければならない局面に来ていた。話を聞いてしまった手前、何か選ぶべきなのだろうが、僕らは、ヒロに興味があったのであって、ヒロの差し出すサービスには今回はあまり乗り気ではなかった。

「ごめんなさい。今回はやめときます。また利用するときは電話しますね」

そういって別れた。

翌日、初音ミクのライブの会場スナップショットで知り合ったコスプレイヤーの女の子が働くメイドカフェに音楽プロデューサーとふたりで行った。ちょうどエヴァンゲリオンフェアをやっていて、僕らは、使徒の絵柄が描かれたラテを注文した。

「あのヒロってやつ、大丈夫なんですかね、下手したら殺されかねませんよ」

「うん、危ないよね、許可とってないって言ってたもん」

心配しながらも、ヒロの無謀さをどこかで愛している僕らがいたことは確かだ。どこか憎めないヒロ。今度会うときがあったら利用してあげよう。そうして時は過ぎ去り、いつの間にかヒロのことは忘れていた。しかし――。


 

2019年。僕は、また林森北路にいた。どうしてもヒロにもう一度会いたかったのだ。理由はこんな噂を耳にしたからだ。

「ヒロが覚せい剤か何かの薬で捕まって今刑務所にいる」

ヒロがそんなことに手を染めていたなんて、快活なヒロの姿からは想像できなかった。僕はその噂が嘘であることを自分で証明したかった。そして、またこの地に立ったというわけだ。

 

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