2022-04-19 ライフ

【書評】『ハッシュタグだけじゃ始まらない――東アジアのフェミニズム・ムーブメント』

© Photo Credit: Shutterstock / 達志影像

(熱田敬子、金美珍、梁・永山聡子、張瑋容、曹曉彤 編著)

評者:田中雄大

「#Me Too」というハッシュタグが使用されるようになって早4年半、日本社会の性差別的な構造は依然として強固なままであり、具体的な性被害の事例も後を絶たない。ハッシュタグを使用することで、隠された性被害の一部を可視化することは、極めて重要なアクションであり、これまで一定の成果をあげてきた。しかし一方で、地道なオフラインの活動とは切り離す形で、ただ「安全」なオンラインの空間にとどまる行為として、「リツイート」や「いいね」をするだけならば、それではあまりに不十分だというのもまた事実である。

このような現状を打破するためには、まずは日本と歴史的に直結している中国・韓国・台湾・香港におけるフェミニズム運動を参照し、それを日本において自分事として受け止め、実際に行動に移すべきだ。これが本書の編まれた意図であり、その読者が引き受けるべき課題である。

フェミニズム運動と不可分の関係にある東アジア共通の歴史的経験と言えば、日本軍による組織的な戦時性暴力を避けて通ることはできない。いわゆる「慰安婦」問題は韓国や中国の政治問題にすぎないと考える人は多いが、実際にはその被害は日本が植民地支配を行った台湾や香港にも及んでいるし、そもそも日本による組織的な犯罪行為であった以上、それが日本の問題でないはずがなく、その意味において極めて「東アジア」的な問題でもある。いわゆる「慰安婦」問題は、一般に「親日」的だと見なされがちな台湾のフェミニズム運動にとっても大きなイシューであり、特に2008年の超党派による日本政府への謝罪および賠償の要求以前は、親中か親日かという対立軸とも密接に絡み合っていた。

また既存の主流なイメージとは異なる運動が展開されてきたという点では、中国・韓国・香港の場合も同様である。政治的抑圧や検閲のイメージが強い中国や香港においては、個々人が大きな負担を強いられながらも、ときに極めてユニークな手法を用いながら、フェミニズム運動を継続し、繋いでいる。韓国に関しては、特に『82年生まれ、キム・ジヨン』以降フェミニズム小説が続々と日本語に翻訳されていることもあり、ジェンダー意識の高い国だという印象が、日本でも年々高まっている。しかし韓国における近年のフェミニズム運動は、従来の運動の流れに連なる面を持ちつつも、一方で新自由主義的で能力主義的な発想を強めるといった危うさをも同時に示している。そして何より、韓国におけるフェミニズム運動も他の地域と同様、これまで常に強いバックラッシュに晒され続けてきたのである。

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