祖母と二人暮らしの卒業生が保健室に立ち寄り、「弁当の日」の思い出と、祖母のために食事の準備をしていることを報告に来てくれました。彼は、やんちゃで教師を困らせることもありましたが、祖母のために「弁当の日」で学んだことを実践してくれていました。
そして、数年後、偶然にも成人した彼に出会いました。すると、家族が増え、今では家族のために食事を用意していると笑顔で話してくれました。
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エピソード2「自尊感情を育む弁当の日」
家庭の事情で母親が長期不在の時がある6年生のある子は、引っ込み思案でコミュニケーションが上手くとれないことがありました。1年生と一緒に行く歓迎遠足では、6年生は自分でつくる弁当を持参することになっています。遠足が近くなり、私たち教師は、母親不在の彼女の弁当のことが気がかりでした。
彼女と話をして、事前に卵焼きの作り方など、簡単な調理について確認しました。遠足当日、登校時間になっても登校していない彼女を迎えに行きました。もしものことを考え、私は弁当を2個作って。
チャイムを押すと、彼女が顔を出しました。家庭科で作ったナップサックが膨らんでいました。「自分で作った物もあるけど、冷凍をレンジでチンしたものも・・・」彼女の言葉に、私は胸が一杯になりました。
その後、先に学校を出発した1年生と合流し、1年生の手を引いて歩く彼女の姿は頼もしいものでした。私は、彼女が1年生の時に6年生に手を引かれて歩いていた姿を思い出し、成長を感じました。
しかし、もっと成長を感じたのは、昼食の時でした。弁当を広げて食べている際に、1年生から「おいしそうね。一人で作ったの? すごい!」と褒められたときに見せた彼女のステキな笑顔。母親が作った1年生の弁当の方が、見た目にもきれいでおいしそうでしたが、「お姉さんが自分で作った弁当はスゴイ!」のです。彼女はその後も少しずつ自信をつけて卒業していきました。
卒業式当日、クラスの友達と笑顔で写真に収まる彼女に、私は「自分一人でできる」ことを当たり前とせず、周囲の人が「よくできたと認め、励まし、褒める」ことの大切さを再確認しました。
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エピソード3「苦手にチャレンジすると人は成長する」
学校では、歯の崩出にあわせて、よく噛むことや食材の感触や音を感じ味わって食べることなども指導しています。しかし、給食の食べ残しの問題や苦手な食材に苦戦し、時間内に食べ終わらず歯みがきの時間に間に合わない子どもが多いなどの実態があります。
給食に悪戦苦闘する5年生のある児童。1年生の時から少食で好き嫌いが多く、いつも給食時間内に食べ終われませんでした。そこで、弁当の日の意義に「給食で苦戦している人も、苦手な献立がある人も、大切な人や自分のために献立を考え、食事を作ることで、今まで苦手だった食材や献立の良さを新発見できる」という内容を示すことにしました。