2022-04-13 流台湾

連載「いちにの算数いーあるさんすー」 台湾ルネサンス時評:林森北路のヒロ③


 

「はじめまして!僕、ヒロっていいます。よろしく!」

意味がわからない。聞くと、この界隈で唯一の日本人の客引きだという。この、突如現れたヒロに僕らはなんだか魅せられてしまい、半ば好奇心と物珍しさ、半ば、哀れさから、ちょっとヒロの話を聞いてみることにした。ヒロは、

「ようこそ!」

と、手を伸ばし、僕らを道へエスコートした。何もかもが、大げさで古臭かった。でも憎めない。客引きされた場所から100メートルくらい歩いて、僕たちは、角にあるマクドナルドに移動した。ヒロは手慣れた様子でマクドナルドに入り、席に座った。注文はしなかった。無料で使うのがヒロの流儀のようである。さっそく僕らは矢継ぎ早にヒロを質問攻めにした。

「日本人で本当にただ一人なんですか?」

「そうですよ。僕だけです」

甲高い声でヒロはこう答えた。

「客引きだと、いろいろ縄張りとかヤクザも絡んでくると思いますが、大丈夫なんですか?」

「今のところ大丈夫ですよ!」

本当に大丈夫なのだろうか……。ヒロが心配になってきた。

ダブルのスーツが本当に暑苦しい。台湾は南国である。しかも季節は夏。なんでこんな格好をしているのだろう。ゴールドの腕時計をし、何のアピールかいまいちわからないいで立ちで、何者かを威嚇していた。

「なんでこの仕事につこうと思ったんですか」

と聞くと、ヒロの目が一瞬、輝き、少しの沈黙のあと、自分語りが始まった。

ヒロは静岡県の生まれ。幼少の頃は、いじめられっ子だった。それを見返すためにヒロはグレた。ヤンキーになったのだ。それが功を奏し、誰もヒロのことをいじめなくなった。その後、ヒロは鳶職になる。長く鳶職を続けていたが、世界で活躍したいと思い(この飛躍がヒロらしい発想)、突如台湾に移住、夜の街を彷徨い、客引きの商売に行き着いたという。名刺を作り、配り倒していくうちに、お客がつき、客が客を呼び、常連さんも増え、営業はいたって順調、日本からの客の電話がひっきりなしだという。(続く)

 

 


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