2021-12-01 経済

インテルCEOがアップルの注文を取り戻すと発言 ! アップルの「育てて切り捨てる」戦略でTSMCの前途に影響する可能性も

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注目ポイント

インテルの パット・ゲルシンガー(Pat Gelsinger)CEOは、主要顧客であるアップルからの注文を取り戻すことを表明。アップルのファウンドリとなる可能性も示唆している。業界関係者の間では、ファウンドリのリーダーであるTSMCとその主要な顧客を奪い合うことになるのではないかと指摘されており、アップルが台湾ラーガン社 (Largan Precision)のケースと同様にTSMCに打撃を与えるのではないかとも懸念されている。

アップルの第2回秋の発表会において、主要半導体メーカーであるTSMCとインテルとの間で思いがけず注文獲得競争が起きた。10月18日、インテルのゲルシンガーCEOは「失われたアップル」の注文獲得に引き続き積極的に取り組むと述べ、その前提は「アップルよりも優れたチップを作る」こととしている。

業界関係者はこれについて、インテルの勢いと、先に育てて後で切り捨てるというアップルの戦略がTSMCの将来に暗い影を落とすことを心配している。

 

昨年6月、アップルは開発者会議WWDCで、新しい自社開発のMac用チップが、長年使用してきたインテルプロセッサに取って代わると発表し、市場は騒然とした。

 

アップルがインテルを離れると市場でささやかれていたのは事実。実際にアップルは密かに「Kalamata」というプロジェクトを立ち上げ、2020年にはMacに内蔵しているインテルプロセッサを自社開発のチップに替えることを計画していた。


 心変わりしたアップルの次のお相手は、英国ケンブリッジにグローバル本社を置く日本のソフトバンク傘下の半導体設計およびソフトウェア企業のARMである。ARMはチップ設計を得意としているが、インテルのような製造能力がないため、TSMCのファウンドリ製造が重要な役割を果たすこととなる。


 2020年まで、アップル製品の中でMacのみが唯一、外部製造のプロセッサを搭載していた。当時すでにiPhoneやiPadだけでなく、Apple Watch、Apple TVなどの各種製品はアップルが設計したARMのプロセッサを採用していた。

 

アップルによるサプライチェーンの調整により、近い将来、Macでさえも自社設計のプロセッサを使用する可能性がある。『Bloomberg』は業界関係者の話として、新たに開発したMacチップはすでにインテルプロセッサよりも優れた性能を持ち、Macbookを薄くコンパクトにしただけではなく、AIソフトウェア、グラフィック性能なども大きく進歩したと伝えている。

 

大口顧客のアップルが離れていくことについて、インテルのゲルシンガーCEOは「アップルは我々よりも良いチップを作っていると思っている。私たちがしなければならないのは、彼らよりも優れたチップを作ることだ。我々のエコシステムは彼らのものよりもオープンで活力がある」と話している。

 

インテルがファウンドリの積極的展開を表明していることに関し、本サイト『The News Lens』が台湾経済研究院の産業経済データベースディレクターである劉佩真(Liu Peizhen)氏を取材したところ、現在インテルは努力を重ね、欧米で積極的に援助を獲得しようとしているほか、ヨーロッパで最大950億米ドル(新台湾ドル2.65兆元)にもおよぶチップ工場を建設するという最新情報も伝えられている。

 

また劉氏は、インテルが各地にファブを設立してもTSMCに与える影響はわずかだとも分析している。そして将来的な観測指標は、インテルのファウンドリ事業の歩留まりと、高度な製造プロセスの壁を打ち破ることができるかどうかであると語っている。同氏いわく、TSMCのもう1つの大きなアドバンテージは、成熟した製造プロセスと高度製造プロセスの生産能力の割り当てが大変よく練り上げられており、インテルがこれを追い抜くのは容易ではないとのことだ。

 

TSMCの危機:アップルの一貫した、サポート&切り捨て戦略

「以前はあり得ないと思っていましたが、今は少し心配しています」。本サイトの取材によると、新竹サイエンスパークにある半導体パッケージング業界関係者は、TSMCは依然として最先端のファウンドリであるものの、TSMCがウェハの製造価格を上昇させ続けることをアップルがいつまでも放ってはおかないだろうと懸念している。


 その関係者は、台湾ラーガン社を例にとり、世界一の技術を持つ企業がなぜ株価6,000元(6,075元)の高値から現在2,000元割れまで落ち込んでいるのか、第3四半期の財務報告書では単期の粗利率が60%も割り込んでいる。直近5年間でも最低値となり、これは大きな危機だと語っている。

台湾ラーガン社の株価が思わしくないことから、「無口な男」として知られるラーガン社の林平恩CEOが、機関投資家向けの説明会での発言を余儀なくされた。まず林CEOは、ラーガンがかつて世界トップのプラスチックレンズ技術で、アップルやファーウェイなどの主要メーカーを顧客としていたことを語った。

 

さらに次のように続けた。4年前までアップルは、単一のサプライチェーンが独自に拡大するのを防ぐために、2年連続で当社のレンズのアップグレードを遅らせ、その間に第2のレンズサプライヤーを育てながら時間と成長をコントロールし、他のレンズメーカーの技術が早くラーガンに追いつくようにした。


 海通証券電子研究主管の蒲得宇氏は、2019年、アップルは奥の手を使ったと述べた。それは「光学設計を自社で行う」というものであり、さらにはラーガンからレンズの設計権を取り戻し、レンズの仕様レベルの向上を遅らせ続けたとのこと。業界関係者はこのことについて、TSMCは危機意識をもって、アップルの心変わりに備えなければならないと話している。

 

劉佩真氏は、アップルCEOのティム・クック氏(Tim Cook)を観察していると、アップルの戦略には一貫したパターンがあることを発見したと話した。それは会社が1つのサプライチェーンだけに依存することを許さないことだ。ただし、ここ数年TSMCには何の影響も与えてはいない。高度な技術で競争できるメーカーがいないからであるとしている。


 米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』の報道では、米国が国内の半導体産業を支援する政策は明確であり、TSMCにウェハファウンドリを米国に建設させようとしているだけではなく、520億米ドルの半導体開発資金を投入して企業の高度な製造プロセス開発を支援し、さらには国内で7〜10か所のウェハファウンドリの建設を続けて生産能力を拡大しようとしているとのこと。


 業界関係者は、現在の半導体産業はすでに単純なビジネスのステップから政治的なパワーゲームに移行しており、特に米国はウェハファウンドリがアジアに集中しすぎていることを問題視していると語った。そして、もし米国が時間と成長をコントロールし、大手メーカー各社を協働させれば、トップ企業に打撃を与えることも不可能ではないとしている。また、TSMCが自らのアドバンテージを発揮し続けるためには、各国とサプライチェーンとの間をうまく調整しなければ、半導体業界で安定した地位にいることは難しいだろうとも話している。

 

原文作者:莊貿捷
原文責任編集者 / 原文校閲者: 翁世航
翻訳者: TNL JP編集部
校閱者: TNL JP編集部

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