注目ポイント
台湾と日本は、これまでの西進・南下型のビジネス開発モデルが、時代遅れになっていないかを考え直す必要がある。土地、労働、環境コストの違いを利用して構築された過去の収益モデルは、今でも日本で通用するのか? また、これを機会に経済・貿易の側面で、日本と台湾はより緊密な相互補完関係を築くことができるのだろうか? これが重要なポイントになる。
生産という側面において、九州には複数の空港も整備され、輸送手段が充実している。また火山地帯特有の地形と豊かな森林が豊富な地下水を生み出し、半導体の製造プロセスを支える最適な条件が備わっている。このことにより、北九州学術研究都市(KSRP)、福岡県システムLSI総合開発センター(LSI)、九州半導体・エレクトロニクスイノベーション協議会(SIIQ)、九州イノベーション創出促進協議会などの機関が、産業クラスター向けに、常に革新的な素材を提供し続けることができるのだ。

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このように恵まれた環境の中、九州にはすでに多くの半導体産業クラスターが形成されている。福岡県の福岡市にはチップ設計関連のベンチャー企業、熊本県には半導体製造に特化したソニーや半導体製造装置の東京エレクトロンがあり、また、大分県には車載用IC、長崎県にはスマートフォン用イメージセンサーデバイスを供給する複数の企業がある。
九州は県単位で見た場合に、少なくとも一つの県に1か所以上の半導体関連企業を事業展開させているだけではなく、国内資本の調達についても積極的に取り組んでいる。半導体製造装置用セラミック素材大手の京セラは、最近、鹿児島県霧島市に110億円を投じ、2工場を新設して生産を拡大すると発表している。
注目すべきは、日本の半導体サプライチェーンは、その川上にある装置や原材料の分野において、一定レベルのリーダーシップを発揮していることである。前者はウェットプロセスやコーティングプロセス装置、CVD装置(化学気相成長装置)、エッチング装置などであり、後者の原材料においては、シリコンウエハ、フォトレジスト、封止剤の3分野で圧倒的なシェアを誇っている。しかし、日本製のウェハの耐久性や持久性は、効率、消費電力エネルギー量の面で急速に変化する新市場の要求には応えられなくなってきている。
こうした中、高度な製造プロセスを有するTSMCが、いかに日本の生産体制と密接に連携していくかが、今後の大きな課題となる。
西進・南下型ではない半導体の「北上遠征」が進む
欧州連合(EU)の執行委員会は、「欧州チップ法案」を導入し、2030年までに欧州製チップの世界シェアを2倍にすると発表した。インドのモディ首相も、半導体の主要供給国になるのが現段階の目標であると強調している。また、米テキサス州もさまざま優遇措置を提供し、サムスンを誘致した。
2022年には半導体の開発を支援する国の取り組みも、より習熟してくるといわれているが、半導体エコシステムの構築は、一朝一夕でできるものではなく、またリーダーの一言で実現できるものでもない。