注目ポイント
今年も残りあとわずか。新型コロナウイルスによる出口の見えないパンデミックで生じた国家間の“ワクチン格差”や、対立を深める覇権主義国家・中国と自由主義社会、史上初の無観客開催となった東京五輪など、The News Lensは2021年を象徴した日本を取り巻く世界の動向を検証する。
デルタからオミクロンへ
中国・武漢で新型コロナウイルスによる初めての感染が確認されて2年。瞬く間に世界中に拡大したパンデミックは現在、感染者約2億8000万人、死者540万人にも上る。これまで使用されたワクチンは89億5000万本。
だが、接種率は国家間の貧富の差により大きく異なっている。日本を含む先進国などは早い段階からワクチンを入手し、2回の接種率もほぼ6割を超えているものの、アフリカ諸国など途上国は3割にも満たないところが多い。さらに先進国などでは3回目の接種も始まり、格差は広がる一方だ。
世界保健機関(WHO)は、オミクロン株など変異種は免疫力の弱い人の体内から生まれやすいため、ワクチン接種が十分ではない開発途上国で出現することが多いとしている。その結果、ワクチン不均衡が新たな変異種を生み、コロナ禍の終息を遅らせると警告する。
それを示すように、感染力が強いとされるオミクロン株は急拡大。欧米各国の都市部ではデルタ株からオミクロン株への置換が進み、ロンドンでは8割の新規感染者がオミクロン株、ニューヨークでも7割超となるなど、すでに主流となっている。また、感染者数も欧米各国では過去最多を更新し続けている。
緊迫する中国vs自由主義
その新型コロナウイルスによる感染が判明した初期段階で、中国政府が情報を隠匿したことが世界的なパンデミックにつながったとして、米国のトランプ共和党政権の対中強硬姿勢は決定的となった。そして、今年1月に誕生したバイデン民主党政権も対中政策は軟化することはなかった。それどころか、新政権は中国政府による新疆ウイグル自治区やチベット自治区での少数民族弾圧など、人権問題を深刻にとらえ、米国主導で自由主義陣営の連携を強化。中国との対抗姿勢を明確にした。
その一つが米国、英国、オーストラリアの3か国で9月に構築したAUKUS(オーカス)という軍事技術を共有する安全保障上の枠組みだ。インド太平洋地域において中国が影響力と軍事的存在感を増していることへの牽(けん)制が狙いだ。
さらに、当時の安倍首相が提唱した「クアッド」と略される日本、米国、オーストラリア、インドの4か国による戦略対話も対中包囲網の一環だ。こちらも9月、クアッド会議を毎年開催することで合意した。
一方、中国は海洋進出で存在を誇示し、周辺国への挑発を続けている。南シナ海のほぼ全域の領有権を主張する中国は、ベトナム、フィリピン、マレーシア、ブルネイ、台湾との対立を強めている。3月には南沙諸島でフィリピンが実効支配する島の軍事拠点化計画を進めていると、220隻以上の「海上民兵」とみられる中国船団が現われ、ほぼ1か月間、威嚇するように近くの海域に留まった。