それから彼はユルリ島の撮影に何度も訪れることになる。たとえ半月の滞在で、2日しか撮れなくても、30分しか撮れなくても。霧深い夏の日、雪の積もる厳冬。
「冬はマイナス15度くらいでしょうか。過酷?過酷とは感じたことはないです。馬はどんな状況でも穏やかで、苦しそうな表情を見せたことはないですからね。吹雪いていても平気で草を食んでいるし、敵もいなくて何かを警戒する様子もない。人に嫌なことをされたこともない馬たちなんです」
馬たちは、島に生える草だけで生きているが、体格も良い。

「島の馬がこれからどうなるのかは僕にもわかりません。地域の人たちも身近にありすぎて価値のないものだと思っていたようですが、外から見た時に憧れをもたれるような島なのだと気づき始めたようです。でも、労力としての馬の役割もとうの昔になくなり、馬を飼う人も、馬のあつかいに慣れた年配の人たちも少なくなってゆくなかで、“馬のいる島”をいつまで続けられるのかはわかりません。存続させたくても、できなくなる日がくるかもしれない。だから、地域の人たちが続けたいと思ううちは、“馬のいる島”が長く続けばよいなと思っています。そして、僕が写真を撮ることで地域が豊かになることがあるのであれば、また撮影に行きたいなと思います」
「ユルリ」とは、アイヌ語で「鵜のいる島」という意味だそうだ。今も、馬だけでなく海鳥の繁殖地としても大事な場所である。そこにはおそらく、動物を育む希少な植物も存在しているのだろう。
写真家・岡田敦の自然への愛情と畏怖、そして生命が生命を見つめるあたたかい視線が、映像から伝わってくる。ぜひ、サイトを見てもらいたい。

ユルリ島ウェブサイト
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